10/01の日記

23:01
本能乙女少年
---------------
そわそわ

きょろきょろ

どきどき


・・・どきどき?



最近の自分はなにか変だ。誰かに見張られているような気がして落ち着かない。胸の辺りがモヤモヤして、それでいて押しつぶされそうだ。強い奴を目の前にしてワクワクする感覚と違って、ドンドンと叩かれているみたいで痛い。とても気持ち悪い。これ以上なると吐いてしまいそうだ。








「悟空さ!どうだべ?美味いだか?味付けちーっと変えてみただよ!」


「・・・・・っ」




そんなに見ないでくれ。その大きな真っ黒い目で見られると食いもんが喉に詰まりそうになるんだ。それに、お前がよく言ってるじゃないか。食ってからしゃべろってさ。だから、目を逸らしたんだ、食うことに集中させてくれ。せっかくの美味い飯が全部、吹き飛んでしまうから。だから、頼む。身を乗り出してまで見てこないでくれ。




「…美味く、ないだか…?」


「…っ!…(ゴク)う、うめぇぞ!!!すげーうめぇ!!!」

「本当だか!?…あはは!塩さ加えてみたんだけんど、隠し味みてぇになっただかな!?」

「…お、おう!!!」




はっきり言って何を言ってるかわからない。自分にとっては全て美味い。美味いしか言いようがないのだ。それでいいじゃないか。だから、泣きそうな顔はやめてくれ。口を尖らせて恨めしそうに見つめてこないでくれ。どうしていいかわからなくなる。嘘をついてるわけじゃないぞ?ただ、そんなコロコロ顔を変えられると焦ってしまうだけだ。




「悟空さ!今日も修行だか?」


「おう!飯頼むな」


「…んだ!任せてけろ」




ほら、まただ。ほんの少しの間、目の色が変わる。その目をされると、自分の胸がもっともっと締め付けられるんだ。胸だけじゃない、身体の奥から熱いなにかがこみ上げてきて爆発しそうになる。


早く 早く 早く ここから去らなければ!!!








「はい悟空さ!昼飯の弁当」


「おうサンキュー!」

「・・・気をつけて行くだぞ?」

「おう わかってる」

「いってらっしゃい」

「おう」




よし!!!!なんとか金斗雲まで呼べたし、乗れた。

さぁ、見えなくなるまで遠くへ行こう。この落ち着かない気分を払わなければいけない。いや、夕方またあそこに帰ってくるまで平常心を蓄積させておこう。

















修行じたいは悪くなかった。悪くなかったのに、身についていないような気がして、勿体無い。このまま帰らずにずっと修行していようか?あそこは酷く落ち着かなくて気持ち悪い。それなら修行していたほうが忘れられる。





・・・・・・・、やはり帰ろう。





やめた。帰らなければ帰らないで、胸のあたりがきゅってなる。少し違う気持ち悪さだ。














「たでぇま…」





声がしない。声がしない。いつもの声がない。

「おかえり」と言ってくれるぽかぽかする声がしない。


・・・気配がない。


何処に行った?もう夜だぞ?寝てるのか?いや、そんなはずはない。だって、この時間は長風呂だろ?気配でわかるんだ、ここにいない。





・・・・・・・いやだ。



最近、感じてる気持ち悪さなんてものじゃない。これは・・・久しぶりの独りという感覚だ。

独り?

修行でかいた汗じゃないじんわり脂汗が吹き出てきた。重りつきの靴が普段より重く感じて、床に張り付いてる。



動け 動け 動け




やっとの思いでドアを蹴破った。落ち着け落ち着け!気をよむんだ。落ち着けって・・・!!






「金斗雲よーーーー!!!!!」






情けないが金斗雲のほうがわかる。急いでくれ金斗雲。早く行かなくちゃ、どうにかなってしまう。疲れてないのに息が荒くなる。夜は涼しくて快適なはずなのにとても寒い。

大嘘だ。自分はバカだ。修行していたほうがイイなんて嘘だ。


会いたい 会いたい 





「チチーーーーーーーーー!!!!!!」





会いたい 会いたい




金斗雲が急降下した先に、見慣れた黒髪がぽつんといた。金斗雲より先に行きたくて、金斗雲から跳び降りた。





「ご…悟空さ」


「何してんだ おめぇ」

「・・・・」

「チチ 帰ぇるぞ」


「…イヤだべ」




なんで?それよりも、こっちを向いてくれ。大きな黒い目で見つめてくれ。




「悟空さはおらの事、嫌いでねぇか…」


「・・・・?」




嫌い?嫌いってなんだよ。嫌いなんかじゃない。そんなわけない。嫌いなんて言ったことない。




「嫌いじゃねーぞ」


「じゃぁ、好きなんか?」

「・・・・好き?」




好き?好き・・・?嫌いじゃねーから好きなんだよな。




「おお 好きだ」


「・・・・嘘だべ」

「??おめぇ 何言ってんだ?」

「悟空さは…意味もわからねぇで言ってるだけだべ」

「意味?」





好き?好き以外になんて言えばいいんだ。好きの意味はまんまだろ?





「・・・オラ わかんねぇ・・・」


「・・・ほら、な?だから、さよならだべ…」





・・・・それはイヤだ。

走りだす一瞬を捉えて、細くて折れそうな白い手首をぐっと掴んでいた。

自分でも気付かなかった。

自分から離れようとして、もがき泣くチチを見ていたら、あの落ち着かない気持ちがふつふつと沸騰してきた。痛いと言って振りほどこうとしている手首を掴んだまま、手の平から伝わってくる体温に頭が身体が全部がくらくらしそうになる。



ここでチチを離したら、一生後悔する。





「っ!!?悟空さ…!?」


「・・・・」





落ち着かないはずなのに、何故か心のどこかでほっとしている自分がいる。

両の腕にしまい込むようにかき抱いたチチが顔を覗いてくる。

胸がどきどきする。




「ご、くぅ さ・・・っ」




温かくて柔らかい感触だ。なんて心地いいんだろう。自分の口を通してチチを感じる。側にあるとわかったら、何かが切れた。




「チチ・・・オラ・・・・・」


「…悟空さ…」


「・・・・・スキ、だ・・・」




大きな黒い目が涙でいっぱいになって、もっと大きくなった。イヤだったのか?いや、待て。これはイヤなんかじゃない。今までに見たことがない、イイ顔だ。

そう確信したら、もう止まらない。

喉がからから渇いてきた。また、チチの唇を食べる。本当に食べてしまいたい。チチの全部を食べたいと思ったら、さっきの「好き」の意味もわかった。

なんて簡単に心に堕ちてきたんだろう。ほかほかして温かい気持ちだ。そして何より気持ちがイイ。




「ぁ ん…っ」




なんて声だ、聞いていると頭の中が溶けてしまいそうだ。

もっと、聞きたくて深く味わってみる。そうすると、もっとイイ声がした。




「は、ん・・・悟空さぁ…」

「チチ…チチ…」

「大好き」

「・・・」




なんて甘美な響きだ。"大好き"という言葉のかわりに可愛い口を塞いでやった。

もう、どうにでもなってしまえ。







この感情が"恋"だと知ったのはチチを本気で食べた後だった。

END



…(土下座)

前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ