10/02の日記

20:54
パロ
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悟チチ(カカチチ)+トランクス







チチは大食漢な男たちの胃袋を満たすためとはいえ、大幅な計算ミスをしてしまった。

なんとか一日の食材の量を計算し、一週間分を買い込んでおくのだが……。やはりワンパターンでは芸がないというもの。新しい創作料理を考えたり、義兄ラディッツに料理を教えたり、それこそ男たちに「美味い」と言われたら嬉しくなってたくさん作ってしまうもの。

「美味い」と言われたら、条件反射でサービスしてしまう。悔しいが、これではパブロフの犬だ。果たして夫や義父、居候の計算であるかはさて置き、チチは今夜の分だけでもと隣村に来ていたのだった。





「う〜ん…帰りに畑さ寄って、少し掘り出したとしても…足りるだべか」


「おや!チチちゃんじゃないかい!どうしたんだい?今日、来るなんて珍しいんや!」

「あぁ!ばっちゃん こんにちはだべ!ん〜ちょっと食材足りなくなってな…」

「おやおや!大変だねぇ〜よく食べる旦那さんを持つと。でも、チチちゃんの手料理が美味いって証さね!」

「やんだぁ〜!ばっちゃんたら こっ恥ずかしいこと言わねぇでけろぉ」

「赤くなっちまって〜!めんこい嫁さんだこと〜。ほれっ この里芋もって行きなせ!」

「わぁ〜!!ばっちゃん いつもすまねぇ…ありがとうな!!」

「気にしなさんな〜!旦那さんにうんと美味いもん食わせてやりなせ」

「うん!!」




チチに声をかけたのは隣村で開かれている市場で売り込んでいる老婆である。パオズ山に住んでいるというだけで、驚かれるというのに加え、更に幼さ余る可愛らしい少女の小柄な体に似つかわしくない大量の食材を買い込んで行く姿は隣村で知らない者はいない。特にこの老婆はチチの美味い料理を食べてもらいたいという純粋な想いを気に入り何かとサービスしてくれるのだ。


それから市場を回って、買い込んだ野菜や果物を大籠に詰め込むとチチはあるところへ歩き出した。




結婚して初めて畑を耕したときに出会って青年。初めこそ人が近寄らないパオズ山で人と出会うなど思っていなかった。まして悟空本人からパオズ山に出入りする人間はそうそういないと言われていたものだから、自分の庭感覚でいたチチは飛び上がる勢いで驚いたものだった。散歩にきたと簡単に言いのけた青年にチチは警戒していたが、畑に蒔いた種について真剣にこと細かく説明する姿に悪い人ではないと心を開いたのが、青年との一歩だった。

青年の名前はトランクスと言って、買出しに行く隣村で研究がてら様々なものを自家栽培しているとかで、チチも畑作りをする際にアドバイスを貰っていた。しかも、はにかむ様な笑顔つきで研究に成功した野菜や果実、趣味のお香などチチにプレゼントしてくれる心優しい青年なのだ。

心優しい青年の外見と言えば、きりっとして意志の強そうな瞳に、髪の毛の色は灰色のような光に当たると薄紫に見えて、普段の生活で黒髪しか見ていないチチには不思議なものだった。








「トランクス〜!」




チチが来た場所は隣村からそう離れていないビニールハウス。トランクスはこの温室を保ったビニールハウスで研究をしている。

荷物を置き、ハウスの戸を開けて青年の名を呼べば、チチの声に反応して、木々の間から顔だした。





「! チチさん!!!」


「こんにちはだべ〜」

「どうしたんですか?今日は、まだ休日じゃないのに…」

「おらがこっちさ来る理由は 一つしかねぇべ??」

「…あはは。そうですね、いい食材は買えましたか?」

「んだ!皆さん本当に太っ腹でよ、すんごぃサービスしてもらっちまっただよ」

「それはチチさんが一生懸命だからですよ」

「そうけ?おらは普通なことしてるだけだべ」

「普通ですか…旦那さんのために一直線なチチさんのイイところです」

「ん〜?相変わらずトランクスは おらを褒めるだな〜何もでねぇぞ?」

「なっ、そんな見返りなんて求めてないですよ!」

「やんだぁ〜赤くなって〜」 

「か、からかうのはやめてください!」

「……」

「……」



「「あははは!!」」





二人は顔を見合わせ笑った。外から見れば可愛いやり取りをする恋人のようである。


チチにとってトランクスは年下(一つしか違わないが)というので、可愛い弟をもった気持ちだった。家には鈍感なそれでいて敏感な金髪の夫に、年を食わない外見を持つ義父、すけべぇでセクハラをしてくる居候者、男たちのフォロー役でかわいそうな義兄に囲まれているものだからか、チチにとって、隣村の人々やトランクスといった存在は世界を広げてくれるものでとても新鮮なのだ。


チチと対照的にトランクスは姉という感覚ではなかった。

自分と一つしか違わないのに、すでに既婚者であること。そして、小柄な体一つで愛する夫のために(数名含む)畑を耕し、美味い飯を食べてもらいたいと、ただそれだけを願う純粋で直向きなチチをすごいと思った。自分には恋人は愚か心を寄せる人がいないし、結婚など考えたこともなかった。チチを本当にすごいと思う中で、たまに消えてしまいそうなチチにトランクスは不安になる。その理由(愚痴)のほとんどが夫のことなのだが・・・。

チチと会うと、ころころ表情を変えて楽しい。と思えば突然、涙を浮かべたり・・・ものすごい剣幕で夫の愚痴をもらしたり、とにかく見ていて飽きない。ほとんどトランクスの相槌に近いのだが、トランクスはチチと関ることが単純に好きだった。
そうして、最後に"でも・・・素敵な旦那様なんだ"としめるチチに胸が締め付けられるのだった。





「また休日に来るけんど、せっかく来ただ。トランクスの顔が見たかっただよ」


「……っ、ありがとうございます」





この村に来る理由は本当に食料のためだ。それはわかってる。そのついでで自分のところにきたのも納得だ。そう、すっぽり穴に嵌るほど納得いくものだ。それなのに、わざわざ会いに来てくれた。ビニールハウスから薄く見える大きな籠、大量に詰まれた野菜や果物を見ればさぞ重かっただろうに・・・。

少し武道をたしなんでいたチチにとって、そうでもないのだが。

知っていながら、トランクスの目にはそう思ってしまうのだから…思慕とは面白いものである。



ビニールハウスを出て、チチは大籠を担ぐ。




「んでは、おら行くな。夕飯の仕込みさせねばなんねぇから」

「はい。わざわざ足を運んでいただいて…」

「なぁに言ってるだ!トランクスは可愛い弟みてぇなもんだべ?」

「・・・弟、ですか」

「んだ!あ、なんだべ?おらはお姉さんって柄じゃねーとか思ってるんだべ?」

「え!?そ、そんなこと思ってませんよ!!」

「本当だか〜??」

「…!(顔近いっ!!!)」


「まっ、いいべ」




ん〜?といたずらっ子のようにトランクスの顔を下から覗き込むチチは笑った。

チチの笑顔に焦るトランクスのことなど知らないでチチは美しい黒髪を翻し背を向ける。

ぽうっと呆けるトランクスははっとして、流れるその黒髪を見つめた。




「それじゃ、またなトランクス」

「はい!」

「あ、そうだべ!」

「?」


「トランクス。研究も大事だけんど、しっかり食べるだぞ?」


「えっ…」

「わかっただか!!?」

「は、はい!!!」

「よし!いい子だなートランクスは」

「……」




背を向けたチチはトランクスに言い残したとばかりに、とことこ側に来て綺麗な灰色の髪の毛を撫でた。



一つにこりと笑い、今度こそチチはその場を去っていった。



撫でられた部分を重ねるようにトランクスはくしゃりと自らの頭を撫でる。

ここ数日、研究に没頭していて食生活は疎かだった。少しくらい食べていなくても平気だったし、顔に出るほどだっただろうか?自分では気付かなかった。それをチチは見抜いたというのか。久しぶりに会ったとしても休日に必ずといっていいほど村に立ち寄るし、たまにチチの畑に行く。ほとんど久しぶりでもないか・・・。





「…敵わないな…」




あんな女性をめとった「孫悟空」という男が羨ましいと思ってしまった。

これは羨望であって嫉妬じゃない。

・・・・そう思いたいだけなのかもしれない。



トランクスは途中だった作業を再開すべくハウスへと戻っていった。




END



うぅ、投石が痛い…←

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