10/03の日記
23:03
パロ
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悟チチ(カカチチ)+トランクス
「もぉ悟空さなんて知らねぇ!!」
昼時、すでに食事を済ませた新婚夫婦の家に雷がおちた。
外で洗濯物を干していたラディッツ、木の上で昼寝をしていたターレス、ソファで新聞を読んでいるバーダック、そして雷が直撃した悟空は体をびくっと跳ね上がらせた。
雷の発信源であるチチから、ただならぬオーラを感じる。
ここ最近のチチの機嫌はよかった。手作り料理は日に日に腕を上げて、愛しい旦那様(複数含む)の腹を満足させているし、一日の汗を流すのも妻の務めだとか言って愛しい旦那様の背中を流し、夜は夜で愛しい旦那様の激しい愛に溺れる……それに付け加えて、義父や義兄、居候の話相手もしている。
まさに日常を送っていただけだ。だが、チチが爆発するということは何かがあったと言うこと。
残念ながら悟空にはそれを察知するだけの知識、経験もない。まして、自分の感情にも疎い人間がチチの乙女心なぞを理解できるはずがない。
まぁ乙女心といっても個人差はあるものなので、全てを理解する者など本人くらいしか解らないのだが…。
「チチ、なぁ落ち着けよ、な?」
「うるせぇだ!!悟空さ何もわかってねーくせに!!」
「え…と、な、何をだ?言ってくんなきゃ解らねぇぞ」
「言わなきゃわかんねーなんて…おらの事、いってぇ何だと思ってるんだべ!!!!」
「何って、オラの嫁だろ?」
「…〜〜バカーーーー!!!!!!」
「おわっ!?」
流石に椅子が飛んできたのに驚いた悟空は軽々と椅子をキャッチする。そのすきにチチは顔を真っ赤にし涙をはらはら流して飛び出して行ってしまった。
全く会話という会話をしていない二人に男三人はため息をはく。
椅子を置いた悟空は頭をぽりぽりと掻きながら、困ったなと眉を寄せる。
ソファで寛いでいたバーダックはちらりと息子をみやる。
嫁に翻弄される息子を面白おかしく見物することのほうが愉快だが、夕飯抜きになるなと考え直し息子へ声をかけた。
「全く…可愛い喧嘩だな」
「父ちゃん」
「まっ、お前には難しすぎるだろがな」
「?どういう事だよ」
「女心って奴だよ」
「!ターレス…」
悟空がバーダックのほうを振り向いた時だ、ターレスが割って入ってきた。
「ターレス。女心というより乙女心じゃないか?」
ターレスの後ろから洗濯物を干し終わったラディッツも割って入ってきた。
「どっちも同じだろ」
「いや同じじゃない」
「お前に何がわかるんだよ主夫」
「主夫ではない!!」
「おい話の趣旨がズレてるぞ。戻せ」
「????」
「…当事者がわかってないがな」
二人の仲裁に入ったバーダックと、全くわかっていない悟空。
いったん止められた二人は悟空の顔を見て二度めのため息をはいたのだった。
その頃、思わず飛び出したチチは畑まで走っていた。
飛び出したことは何回かある、そんな時は決まって畑に来てしまう。自分しか手を加えることを許さないテリトリーのようなもの。無意識に逃げ道にしてしまっているのだろう。
とめどなく流れる涙を手の甲で何度も拭いながら川にうつる自分の顔に自嘲した。
「…ひでぇ顔…」
何てことはない。ただ、ちょっぴり淋しくなって、不安になっただけ。悟空が好きすぎて、一人頑張っているだけで、悟空は身の回りの世話をしてくれるなら誰でもいいのでは?と意地悪なことを一瞬、頭をよぎってしまっただけ。実は物凄く愛されているとわかっているし、信じているのに…。
ほんの少しだけ、「ありがとう」の一言が欲しいなどと欲張ってしまった。
「おらバカだべ…見返りほしくて悟空さといるわけでねぇのに…」
矛盾してる自分に腹が立つ。馬鹿な我が儘だと自分が憎くて仕方がない。
川のせせらぎを見つめて、ぐにゃりと歪む視界と喉をつかえる嗚咽。ぺたりと座り込んで、俯いてしまう。
カサッ
「…っ?」
草をわける音がして、チチは慌てて涙をごしっと拭い振り返る。
「、ご……っ」
「…チチさん?」
「…あ、トランクス…」
「……、」
「や、やんだ…見ないでけろ…」
何と言い偶然か。散歩すると必ずといっていいほどチチの畑へ足を運ぶトランクスに、まさか今出くわしてしまうなんて。
しかも、ほんの一瞬だけ、悔しいが悟空が迎えに来てくれたのではないかと期待してしまった。今、一番会いたくないというのに不思議である。
赤く腫らした酷い顔など見られたくなくて、とっさにチチは俯く。
偶然とはいえ、いつも話を聞いているトランクスは俯くチチを見つめながら顔を歪ませた。
「チチさん…とにかく、目を冷やしましょう」
トランクスはチチの横へと移動するとポケットからハンカチを取り出し川の水で濡らす。絞ってそれを渡すことも出来たのだが、何かがトランクスの中で弾け、ごく自然な動作で俯くチチの顎を掬い上げハンカチを目にあてた。
さすがに驚いたチチだったが、声を出す前に当てられたハンカチの心地よさに意識を集中させる。
「……落ち着きましたか?」
「んだ…すまねぇだ」
「いいえ…」
「…ありがとな。トランクス」
「…はい」
「はは、ひでぇ顔、見せちまっただな…こっ恥ずかしいべ」
「いいえ…まだ当ててください」
チチは小さく笑う。トランクスはただ見つめる。
チチからいつも聞いている愚痴はチチがすでに過去のものと笑い消化した話だから何か返せるのであって、現在チチに何があったのかは聞かない。聞いても自分にはわからない気がして、逆にチチを傷つけてしまうんじゃないかと…それが恐くて、また失礼だから。
代わりにならないけれど、せめて落ち着くまで、その涙が止まるまで側にいてあげたいと思った。
「チチさん。今の時間、陽射しが強いです。木陰に行きましょう」
トランクスはハンカチを押し当てて俯くチチの手を優しく取り、いつも休憩している木陰へ導いた。
数分。二人はパオズ山の澄み渡る空気に身を任せていた。
両足を抱えて俯くチチがハンカチを目から離して、トランクスに向き直る。
「……これ、ありがとな。洗濯して返すべ」
「そんな、洗濯なんていいですよ。俺は…ただ、その…」
「ふふ。トランクスは優しいだな」
「………チチさんは、無理に笑いすぎです」
「……」
トランクスの真剣な眼差しと言葉にチチはどう返していいかわからなかった。
数秒、見つめ合ってチチは照れ笑いをする。
「や、やんだ!おら、そんな出来た女でねぇだぞ?本当、トランクスは褒めすぎだべ」
「……」
「おらは素直で可愛い女の子だぞ?なして、そんな無理せねばなんねんだ」
「…、そうですね」
チチはトランクスから視線をはずして足元の草をいじりながらけらけら笑う。
チチにはぐらかされたかなと、トランクスは小さな胸の痛みを覚えるが、チチが笑うなら…と微笑んだのだった。
トランクスは現在、研究で成功している栽培の話しや市場ではやっているもの等、普段この畑であった時のようにチチに接した。最初こそ小さな相槌であったチチもトランクスから得る情報に自ずと笑顔になっていた。
それを確認したトランクスはすっと立ち上がる。
「…そろそろ村に帰ります」
「あ、んだな。…すまねぇだ」
「気にしないでください。俺は貴女に笑顔が戻るためなら、時間なんて安いものです」
「やんだぁ!そったら事は好きな人に言うもんだべ?全く、おらをからかって……………、トランクス、おめぇには本当、感謝だべ」
「とんでもないです…」
「本当ありがとな」
「チチさんも、好きな人にちゃんと伝えてくださいね」
「…っえ」
トランクスはふっと笑いチチに背を向け村へのけもの道へ入る。
トランクスの言葉に一瞬、ぽかんとなるチチだが、顔を真っ赤にしてトランクスが去ったそこに向かって叫ぶ。
「トランクス!な、な生意気だべーー!!!!」
これに対して誰の返事ももらえなかったが、チチは握りしめていたハンカチを見つめて微笑んだ。
「トランクスも、男の子なんだべな…」
知り合った期間は短いけれどトランクスを弟と思っているチチは全く意識する必要もないし、対象と感じていなかった。先程の言葉やハンカチを思い返して、チチは改めてトランクスが男の子なんだと気づかされる。気づいたとしても、やはりチチ自身なにがあろうと悟空を愛する気持ちは不変なもので、深くは考えなかった。
さて、これからどうするかと畑を意味なく見渡した時だ。
上空から見慣れた人物を発見する。先程まで会いたくなくて、それでいて早く迎えに来てほしいと、我が儘な自分の心を占める大好きな旦那様だ。
「チチーー!!!!!!」
悟空は地面に降り立ち、チチへと一目散に駆け寄る。
母犬を恋しがる子犬のように慌てる顔で駆け寄ってくるものだから、チチは急に愛しく、そして申し訳ないと小さく笑ってしまった。
「チチ!」
「悟空さ…」
「本当にすまねかった!!!!」
「悟空さ?」
「オラもっともっと、チチをいや…ずっっっっとチチを大事にするぞ!!!!」
「…ご」
「だから、帰ぇってきてくれ!!!!リコンなんてオラぜってぇイヤだ!!!!チチがオラ以外の奴んと嫁に行くなんてイヤだ!!!!」
「……はっ?」
「父ちゃんたちに言われたんだ。チチの気持ちわかってやれねーようなおめぇは離婚されるんだって」
「…悟空さ、離婚の意味しってるだか?」
「捨てられるんだろ?そんくらい、おめぇとケッコンしてからわかっぞ」
「……ふふっ」
「??」
「…離婚なんて、おらのほうから願い下げだべ」
「ち、チチ…じゃぁ帰ぇって来てくれるんか!!?」
「おら初めから離婚なんて考えてねぇだぞ」
「本当か!?よかったぁ……」
「…ほんの、な…ちょっぴしだけ…」
「ん?」
チチはトランクスから言われた言葉を思いだし、目を細めて悟空を見つめる。
悟空もさっと頬を染めたチチにドキリとしてチチの両肩をそっと掴んだ。
「ほんの、ちょっぴし…淋しくて不安になっちまっただけなんだべ」
「淋しい?不安?……オラたちより強い奴でもいるんか?」
「そういう意味でなくてな、おらが…悟空さに贅沢を求めちまっただけなんだべ」
「贅沢?」
「気にしねぇでけろ。もういいんだ。悟空さ、なんも悪くね」
「チチ…」
「さ、皆待ってるべ。帰ろ」
「………」
チチは伝わらないだろうと思いながらも、ありのままを悟空に明かした。のだが、笑ったチチの顔があまりにも悲しくて悟空は強く引き寄せ抱きしめる。
抱きしめた時にふわりと漂うチチと自分以外の匂いにただならぬ焦燥感が体を駆け巡った。
「はっきり、言ってくれねぇか?…オラには金はねぇ、けど金以外でほしいチチの贅沢は全部、叶えてやりてぇ」
「ご、悟空さぁ…」
この愛しい旦那様はなんてことを言うんだろう…。その言葉と今、体を抱きしめてくれる全てで、どうでも良くなった。
さびしさを消す欲しいものなんて、本当は最初からわかっている。自分だって若い女の子だ、もっと人生を謳歌したい。村と畑を往復して毎日、家事…そんなの変だ。
……違う。悟空に捨てられる、必要とされないことが何より恐くて、屁理屈を並べてるだけだ。
悟空を想うがゆえの意地悪な乙女心。
「悟空さ…」
「なんだ、チチ…?」
「……そばに、いてけれ…」
「いるぞ?」
「ずっと、ずっとだべ…。おら、それだけで本当は幸せなんだ…」
「本当か?我慢なんかすんなよ」
「…うん」
悟空に求めていた「形あるもの」は全て消えてしまった。ぐちゃぐちゃしていた乙女心はいとも簡単にころころ変化するもので、まだまだ大人な女になれそうもないと、どこか冷静に考えてしまうチチであった。
チチの心境に本当にわかっているかどうかは、さておき…悟空も目に見えぬ焦燥感を胸に抱いたことで一層チチを閉じ込めてしまいたい気持ちになったのだった。
END
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