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□Mother Mother
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剣を腰にさげ、黒いコートのポケットに右手を突っ込み静まり返った街を歩く。


手に握るソレは、もう誰の物だったかわからない。
必死に奪った。


生きるために、自分を守るために、自ら手にした



少し、年代物の銃。



今はもう、悲しいぐらい手に馴染んでしまって。
捨ててしまおうと思ったこともあるけれど、どうしても捨てられなかった。

そうじゃないと、街に出ることさえままならないんだ、この荒んだ国は。
殺らなければ、こちらが殺られる…そんな、世界。


でも、それでも、命を奪ったりはしたくない。
少しでも、少しでもなくなっていい命なんてない。
誰にも、奪っていい権利などない。



…そう言うと、いつだったか誰かに笑われた。



とんだキレイ事だと。
そんなことで生き残れるのか、
お前は必ず早死にする…と。




それはそれで本望だと思う。
俺には、自ら死ぬ気も誰かを殺す気もないから。
誰かに殺されて死ぬことができれば、さぞ楽だろう。



でも、


約束したから、あの人と…





ふらふらと中心街の方へ足を進めると、視線を感じた。
少し…いや、だいぶ珍しい殺意のない視線。



興味本位で振り向くと、そこには一つの人影。


あれはたぶん、男で間違いない。


夜目は効く方だ。



「…何か俺に用でもあるのか、黒コートのお兄さん。」



立ち止まったままじっと見ていると、建物の壁に背を預け、片膝をたてて地べたに座わる少年が、微かに笑った。


綺麗なブルーアイズを細め、唇の端をあげてクツクツと、どこか人を蔑むような笑い方で。



別にこれといって不快じゃなかったが、整った顔をしているのだから、本来はもっと綺麗な笑い方なんじゃないかと思ったら、少し残念に思えた。



更に距離を縮めるように近寄り、目線を合わせるようにしゃがむと、少年も俺に視線を合わせる。



「お前、こんな時間に外にでたら危ないだろう。どうしたんだ?」



静かに問いかければ、少年は更にクツクツと笑った。



「別に。帰る場所もなけりゃ、俺を待ってる人もいない。ただそれだけだ」



いい終え、たてていた方の足の膝に額を乗せる少年の口元は笑っていた。


別にそれは平気だという風に見えたが、それよりももっと、俺にはとても小さく見えた。


二つか三つぐらいしか歳が違わないだろうこの年下の少年が…
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