TEXT

□After Story
1ページ/2ページ



揺れる木漏れ日にふと目を覚ます。



さわさわと吹く風は優しく頬を撫で、あの頃より少し短くなった髪を揺らした。




「…起きてたのか?」


「…」




ノックもせずに部屋へ入ってきた人物に視線だけを送って、再びベッドから窓の外へと戻す。



気分は絶好調に悪い。



それはずかずかとベッドの脇に来た男にではなく、このどこまでも青い空に対して、だ。




「今日は幾分顔色がいいな」




淡々と告げられるそれは、綺麗に左耳から右耳へ流れる。



そう、よかったね。




なんて、どこか他人事のように言葉を受け取っておいた。




だって、仕方ないじゃないか。





「…ぁ」


「……なんだ?」




喋りたくても、喋れないんだ。



煙でやられた肺は声を、



柱の下敷きになった時に損傷した頸椎は、俺の手足の自由を奪って。







会いに行きたいのに行けないんだ。







あの場所へ帰りたいと、みんなに会いたいと。




俺は伝える手段を失っているから。




今目の前にいる男に…あの日、燃える部屋の中で死を共にしようとしていた息子殿にでさえ。




それが罵倒なのかなんなのか自分でもよくわからないけれど。





本当に、何も言ってやれない。






「ぁ」


「…悪い」





わからないと眉を寄せるだろう謝罪の言葉に、もう聞き飽きたとも。





謝らないで、



罪滅ぼしなんて、たぶん必要ないんだよ。




例え気紛れであっても、貴方を可哀想だと思ったからでも



俺は貴方を倒れてきた柱から助けた。




そして、貴方も俺を助けてくれた。




頭を強く打った衝撃で記憶を失って、ひどく混乱しただろうに。





確かに今までしてきた事は許されることじゃないけれど、




傍にいなかったんだよね。




俺にとってのケイゴみたいな存在が。




あの堅苦しく息の詰まる生活の中で、自分を支えてくれる存在が。




お金とか、ごちゃごちゃしたものから離れて、貴方が変わったのを俺は知っている。




やっぱり初めは不信感が拭えなかったけれど。






欲は人を変えるって、今ならきっぱり言える。







貴方は今、あの頃の貴方じゃない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ