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□キミの望みであるのなら…
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人差し指で指輪に嵌められた黄色のダイヤがキラリと光る。
夜明けと共に徐々に輝き出す空にそれを角度を変えながら翳すとキラキラと眩しい程に輝いた。
朝日を浴びて輝くダイヤを見つめると、輝いていた大事な奴の笑顔を思い出す。
奴の遺言通りにしてはいるが、ダイヤを見ているだけで頬に熱い雫が伝い落ちる。

(こんな物、オレには一切無いと思っていたのにな…)

"血も涙も無い"という言葉は聞いた事がある、恐らくオレにピッタリの罵りだろう。
腐っても人間だ、血が無い筈は無い。
現に紙で指を切れば血も出るからだ。
(屁理屈だと言う事はよく分かっている)
ただ、"涙"何て悲しみの感情は、自分には無いと自負していた筈。
己にあるのは、憤怒だけだと思い込んでいた。

(…馬鹿馬鹿しい…)

こんな事を考える自分が忌ま忌ましい。
こんな事を考える結果にしてしまった自分を憎く感じる。
考えれば考えるだけ後悔は尽きないものだ。
そういえば、後悔先に…何たらとかいう"諺"という物がジャッポーネにはあった気がする。

くだらない事ばかりが頭を巡り、頬を伝う雫は静かに足元へと落ちる。
雫が顎から首に伝うと擽ったかったが、今はそんな事を不快に思う事は無かった。
ある一線を越える程強い不快や悲しみを味わえば暫くは些細な事は気にならない。
例外はあるとしても、今のオレは強すぎる喪失感を埋める物が何一つ無かった。
怒る事が無駄なのだ。
体を巡る怒りの炎に身を焦がされても、それを鎮めてくれる雨はもう永久に降らないのだから…

あぁ、乾き切ったオレに一滴でもいいから鎮魂歌の雨が欲しい。
そんな儚い希望を抱きながら、奇跡など信じる柄でも無いのにダイヤにそれを祈るのだ。
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