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□キミの望みであるのなら…
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何時も通りのある朝。
忌ま忌ましいと同時に自分の愚かさを思い知ったリング争奪戦から数年が過ぎた。
偽善者にしか見えないガキの信頼も大分得てきて、任務もそれなりにあった。
かつての忙しさと比べれば、今は暇潰しに殺しをやるようなものだ。
オレは拷問にでもかけられ、殺されるのだろうかと考えた絶望のあの日。ヴァリアーのボスは代わりにオレとオレの守護者以外がやるのだろうかと朦朧とする意識の中考えた。
だが、意外にも無事に生き返った9代目と一応10代目として沢田の意見も取り入れられ、『寛大なお心』で許された。
(実際は始末書を書いたりそれなりの質問を受けたり、オレに加担した守護者を始めにする奴らが雑務をこなしたりはしていたが)

とにかく、何だかんだで生きているオレは少しだけ忙しさが引いたボスの仕事を毎日こなしている。
最初の頃はこれに加え、半泣きで怯えていた沢田やあちら側の雨や晴れの守護者にイタリア語を教え無くてはならなかったため、仕事は少ないとは言え無かった。
しかし、晴れにしか教えていなかったがルッスーリアや、オレについて補足やら質問やらをスクアーロが受け付けていて、一見平凡な風景だったと思う。

そして、今、オレの目の前にはスクアーロが立っている。
前髪は切り揃えたが長さは変わっていないようなこいつは、争奪戦が終わるとオレが拒まない限り一緒にいたがった。
オレも何故か悪い気はせず、傍に寄って来たスクアーロの髪を弄ったり、酒を持って来るよう言い付けたりしていた。
要は不安が消えないのだろうと自分なりに解決させ、さして気にも留めていない。

「ゔお゙ぉい、任務かぁ、ボスぅ…」

二人の時は名を呼び合っていたりするのだが、仕事となればお互い別だった。
公私混同をする気等無いし、ましてそれで命を落とすなど無様な姿は曝す訳にいかないから、当然の事である。

「あぁ、珍しくSランクだ。
…出来るか?」

最近ではAランクが最高程度の任務しかこず、正直物足りなかったスクアーロは今すぐ引き受けたかったが、自分が出来る内容なのか返事をする前に資料を確認した。
資料にのっていた要求は中々微妙な物であった。

【ファミリーを潰せ。余り派手にやり過ぎなければ殺し方は問わない。任務終了の合図と共に処理班が駆け付け、爆破する。】

これではどういう物が派手なのかが全く分からなかった。
それに最後に現地を爆破するのなら派手にしようがしまいが関係無いのでは無いか。
そう思いちらりと上目に見て来たスクアーロが何を言いたいかすぐに分かり、肩を軽く竦めて見せた。
すると理解したらしいスクアーロは紙を見つめて固まってしまった。
本人は出来るか否かを考えているのだろうが、正直変な奴にしか見えない。
客観的に見れば、一枚の紙を持って固まっている長髪の怪しい野郎に映る事だろう。
ベルあたりは悪戯が過ぎる事が多いため、ワイヤー付きの鋭利なナイフを投げつけるのだろうなと本当に人事に思った。
そうして下らない事にオレが思考を働かせていると、視界の端に紙から顔を上げたスクアーロが映る。

「…どうだ?」

相手が口を開く前に聞くと薄く開き掛かった口が一旦閉じ、不満げに歪められたかと思えば、再び開かれた。

「大丈夫だぜぇ、最近はつまらねぇ任務ばかりだったからなぁ。
余りの完璧さに息を呑むんじゃねぇか?ボスさんよぉ…」

自信たっぷり、余裕の面のスクアーロがそう言ってオレを見る。
既にプライベートでオレに見せる穏やかな表情は消え失せ、真面目で尚且つ傲慢な表情に戻り、取り巻く雰囲気さえ僅かに変えたようだ。
そのギャプがまた楽しくて堪らないという事を自分で気付く日が今から楽しみだった。
(尤もそんな日が来る事は無くなったが、余りにも予想外過ぎたのだ)
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