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□キミの望みであるのなら…
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その任務は時間の指定もあり、スクアーロはそれをきっちり守って午後4時30分に任務を開始した。
ただ、4時前にスクアーロを送り出す時点で嫌な予感がしてならなかった。
胸騒ぎとでも言うのだろうか、自らの鼓動をとても速く感じる。
だが、暫く経てば自然に落ち着くだろうと思ったオレは自分の直感に背いた。
これが生涯でも数える程しか無い過ちの一つとなった。

***

スクアーロの任務が始まって約1時間が経ち、時刻は5時25分。
終わらせなければいけない書類もあらかた片してしまった頃だった。
自分のプライベート用の携帯が鳴り、嫌な予感と共にディスプレイを見たが、その瞬間に緊張が解れた。
電話の相手はルッスーリアだった。

「何だ」

携帯に出るとルッスーリア独特の男にしては高めに感じる声がする。

{あ、ボス〜?スクちゃん知らない?
携帯に何回か電話したのにでないのよ〜}

あぁ、そういえば今日いきなり押し付けた任務だったと思い出し、ルッスーリアにその旨を伝えた。
ついでにと先程から止むばかりか強くなる不吉な予感について話すと、今まで新しく作ったケーキの事をご機嫌で話していたルッスーリアが息をのんだ事が分かる。
その理由を言うように促せば、切羽詰まった声ですぐに任務の地へ行くように言われた。

{ボスの直感何て一流の天気予報士よりも占いの人より当たるのよ!!
スクちゃんに何かあったのかも知れないじゃ無いの!!}

ルッスーリアに強く言われ、オレは確かにそうだと思わざるを得なかった。
それほど迄に今のルッスーリアの言葉には説得力があったのだ。
オレが分かったと返そうとするより早く、今度は仕事用の携帯が鳴り響いた。

「ルッスーリア、出ていいか?」
{えぇ、ただ切らないでちょうだい}
「あぁ」

短い会話を交わしたオレはプライベート用の携帯を机に置き、未だ鳴り止まないもう一つの携帯に出た。
すると、焦っている男の声。

{っ、ザンザス様!!申し訳ありません!!}

出たと同時に叫ぶように言われ耳が痛い。
恐らくルッスーリアにもだだ漏れだろう。

「謝る前に事情を話せ」

謝られた所で許せる事か許せ無い事かは決められ無い。
とにかく内容を聞く事にしたオレはそれを促す。

{じ、実は、昨夜お渡しした任務の書類には少し間違いがありまして…。
あの任務はランクより少し上の物でして、スクアーロ様とザンザス様のお二人で遂行していただかないと難しい物でしたが、その点が書いていない事に先程コピーを取った物を見て気づいたのです!}

・・・・・何だって?
オレは自分の耳を疑った。
あの紙にはランクと要求しか書かれていなかったのに、それほどの任務だったのか?
スクアーロを送り出した時から止まない嫌な予感の原因はこの事だったようだ。
何故、もっと早くに行動に移していなかったのだろう?
そう、自分を呪いながら気づけばオレは携帯を机に放り投げて部屋を飛び出していた。
何時もなら部屋を留守にする場合は鍵をかけてそれを確認するぐらいは最低限していたが、今はそんな当たり前の事すらする余裕が無かった。

「ボスッ!!」

その声に辺りを見るとるっスーリアが走って寄って来た。
そういえば、プライベート用の携帯も放って置いたままだった。

「ルッスーリア…」
「あっちに車を用意したわ、処理班や医療班は先に向かうようにアタシから指示を出したから、ボスは早く行って?
ボスの予感が当たってるなら、大変な事になってしまうわ」

オレは、初めてルッスーリアに心から感謝した。
車の手配やら何やらはすっかり頭の中から抜け落ちていたようだ。
何時ものオレらしくなかったが、今は仕方の無い事だと思う。
それに、誰も責めやしないだろう。
車に向かいながらルッスーリアに礼を言い、それから直ぐに車に乗り込んだオレを見ると同時に運転手が車を走らせた。
「もっと早くしろ」と言いたくなったが、余り広くないこの道で出せる限りのスピードを出してくれている事に気づき、口を噤む。

それから10分程で目的地に着いた。
ハイスピードで来れば大分早くなるものだと何所か冷静さを失っていない頭で考え、車から降りて警戒しつつも走り出した。
しかし、予想していた罵声やら銃声やら悲鳴やらは聞こえず、それが倍に「失う」恐怖を駆り立てる。
辺りを見ると、血を流して倒れている者や、見るも無残な屍が山積みになり、道を作っていた。
恐らくスクアーロとほんの数人の部下の手にかかった物だろう。

「…ザ・・ン、ザス・・様・・」

その時、か細い声が聞こえた気がした。
オレの名を苦しそうに呼んだと思う。
辺りの気配に気を配り、耳を済ませると重傷なのかくぐもった呻き声が聞こえる。

「てめぇは…」

近寄って見ると、もう助からないと思われるスクアーロの部下。
ヴァリアーを示す印の紅と銀の殆どが恐らく彼と彼が手にかけた物の血液によって汚れていた。

「スク、アー・・隊ちょ、が・・っ・・」

そこまで言ってそのものの気配が無くなった。
一応脈を確かめてみると思った通り止っており、息絶えた事が分かる。
部下のこの姿を見て、急速に不安が募った。

(スクアーロはどうなった?
この奥にいるのか・・?)

オレは周りの屍には目もくれずただ見慣れた銀が視界に入る事を望んだ。
きっとオレが走って行けば部下を犠牲にはしたが任務を完了させたあの鮫が、振り返って何を焦っているんだと、自分を馬鹿にするだろうと思いたかった。
そうでもしないとやっていられなかった。
奥に進めば進む程オレの不安は増すばかりだったからだ。
こんなに強い自分の勘は必ずと言っていい程に当たるのだ。
例え、それが最悪な結果の物でも、必ず・・

暫く走り続けると、一つの部屋が見えて来た。
思ったよりも広く、少々息が上がっていたオレは、はっ、はっ、と耳障りな小さな呼吸を繰り返しながらその部屋に入った。
中は何のための部屋なのか一瞬理解できなかった。
ただ白いだけのその部屋は異様に広く、何故か存在感のあるものだった。
数秒その部屋を見渡すと部屋の中に武器やら拘束のための道具やらが見えた。
恐らく、この部屋は捕虜を捕らえておくための部屋でおり、時には拷問に使われるのだろうと分かった。
その部屋の真ん中に、捜していた人物は立っていた。
ただし、無傷とはいかない。
長く艶やかな銀の髪の半分程が血に濡れ、所々髪が短くなっていて不恰好だ。
オレは目を見開いた。
あれだけ切らないと言って、どんなにハードな任務でも髪はきちんと守ってきたスクアーロの髪が・・
オレはそれを見ただけで、スクアーロとその部下がどれだけハードな任務をたったの数人でこなしていたのかを悟る事ができた。

「スクアーロ・・」

掠れた声でスクアーロの名を呼ぶ。
元気に振舞おうと思ったが、そんな事は出来ないようだ。
すると、ゆっくりとスクアーロが振り返った。
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