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□温もりは望め無くて嘲笑だけが心に残る
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お父さんを待たせたく無かったオレは綺麗にだが手早く全身を洗い、短い間だけお湯が張られた広すぎる浴槽に入った。
その後脱衣所に戻り、気付かない内に用意されていた服を身に着ける。
サイズはピッタリでは無かったが、こんなに清潔な良い物を着れるだけで有り難かった。
まだ髪からは水が垂れて来ているため、タオルでわしわしと拭きながらお父さんの待つ部屋へと戻る。
置いて行かれなかったかと多少心配だったが、お父さんは部屋に用意されていたソファーに腰掛けて待っていてくれていた。

「…お父さん」
「あぁ、XANXUS、出たんだね」

声を掛ければ穏やかな笑みを浮かべながら立ち上がり、オレの方に歩み寄って来る。

「やっぱりサイズはピッタリじゃ無かったね…」

袖が余っているのを見ると苦笑し、支配人に子供がいるからそれを分けて貰ったのだとオレに説明してくれた。
支配人はよく分からなかったが、お父さんに従っている人達なのだろうとは分かった。

「それじゃあ、屋敷を見て回ろうか。
それから、その服じゃサイズが合わないから、服も買ってしまおう」

そう言ってお父さんはタオルをオレから取り、髪が傷んじゃうよと言いながら丁寧に拭いてくれた。
その手つきは優しさが滲み出ているようで柔らかかった。

「ん…、待たせたら悪いと思った…」

頭を拭かれているだけなのだけれど、まるで撫でてもらっているようで心地良かった。
だから、素直に言える。今まで思った事をそのまま言うのは母親の機嫌を損ねる事が多いから、黙っていた。
炎が出せるようになると、今まで時々遊んでいた“友達”も怯え、近寄らなくなった。
勇気があるらしい奴は、化け物だと罵って来た。何か話せば冷やかされる。
だから、迂闊に口を開く訳にはいかなかったのだ。
そんな経験があるからこそ、お父さんに思ったままを言えた事は驚いた。人柄と言うのか、雰囲気と言うのか、お父さんはオレにとって、既に特別な存在になっていた。

「XANXUSは優しい子だね」

お父さんは優しいと言ってくれた。
本当だろうかと見上げれば澄んだ瞳と目が合う。嘘は言っていない。
そう、感じた。

「…それじゃあ、行こうか」

タオルを片し、オレの身嗜みをしっかり整えるとお父さんは言った。
それを肯定し、手を差し出すとその手を握ってくれ嬉しくなる。
そんな嬉しい気持ちを抱えながらオレはお父さんについて行った。
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