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□雨の日は晴れ†制作中につき閲覧はご遠慮下さい
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今日は朝から雨が降っている。
朝は屋根や地を雨が叩く音で目が覚めた程だ。
しかし、それはほんの数時間の事で、昼頃になると雨足は穏やかなものになった。
だが雨は止む事は無く、しとしとと降り続けている。
今日はザンザスは仕事が忙しく、スクアーロが朝早く執務室へ出し忘れていた書類をこっそり置こうとした時から起きて、執務をこなしていた。
スクアーロの目にはまだザンザスは眠いように見え、かなり前から起き出していたのでは無いかと予想がついた。
「…ゔお゙ぉい、早ぇな、ボスさんよぉ…」
欠伸を噛み殺しつつスクアーロが話し掛けたが、視線も顔色も変えず、ただ何だと返すザンザスに、溜息を一つ。
「心配してやったんだろぉ?
気付いちゃいねぇかも知んねぇが、眠そうだぜぇ?」
自分を見ないザンザスに焦れたのか、スクアーロは顔を覗き込みながら言う。
しかし、即座に拳が飛んできたため、慌てて離れる。
余り速度が無かったらしいそれは鼻を僅かに掠っただけで、スクアーロは安堵の息を漏らす。
「…それで?
その手に持ってやがる汚ぇ紙は何だ?
……まさか、書類…、何て言う筈がねぇよな…?」
そんなスクアーロをちらりと見たザンザスは持っていた万年筆を置き、正面から相手を見据えた。答えが見えているらしい彼は口角を上げ、楽しそうに笑みの形を作っていた。
「うぉ…、別に汚くはねぇだろぉ;?」
汚い紙と言われてしまい、案の定書類である紙を思わず握り締めながらスクアーロは静かに訂正させようとする。
これで相手が汚くは無いと言い直せば、余り怒られ無くて済むと思ったのだろう。
「いや?どう見ても綺麗とは言えねぇな」
しかし、ザンザスはあっさりと否定してしまい、スクアーロは更に立場を悪くしてしまった。
自業自得だろう。
どうするかと考えている内にザンザスは自分が書き上げた書類を一枚摘み、スクアーロの前で軽く振った。
「こういうのが綺麗だと言うんだ」
自分の書いた物を綺麗だと言う何て自画自賛だと言おうとしたスクアーロだったが、成る程、それは確かに綺麗で、言い返せ無かった。
出した人の管理の仕方も良いのだろうが、ザンザスの字は、何と言うか、その綺麗さを乱さないのだ。
書類は種類は多少違えど大量にあるのだから、字は汚くなるものだろうが、それはザンザスにとっては違うようだ。
眠い上に大量にあると言うハンディがあるのに、全く関係が無い。
「…確かに汚いなぁ…」
それを見せつけられてしまえば、もうスクアーロには行き着く島は無く、諦めて認めざるを得なかった。
「まぁ、汚いのは顔もだからな。
ただ、それは何時の物だ?」
汚い事に対しては不本意ながら許してくれたようだ。
スクアーロが安心したのも束の間、期限の話に移される。
途端にスクアーロの顔色が変わる。
「これは…、その…」
何と言い訳をしようかと悩んでいれば、ザンザスは更なる追い討ちを掛ける。
「オレが起きる前に置いて、さっさと逃げようって魂胆だろ?」
ザンザスは呆れ顔だ。 当たり前だろう。
多かれ少なかれ、彼が忙しい事はスクアーロも分かっていたのだ。
ザンザスの気まぐれでしか優しくはされないが、それはその感情の名前を知らない彼からの確かな愛で。
何時からだろうか?
今のような関係に進展したのは。
昔はそれこそ主と下僕並の関係だった。
それから少しずつ、何年もの年月を掛けて、少しずつその関係は深い物となっていった。
(オレ、今迷惑掛けてるよなぁ…)
考えを巡らせている間に、何枚の書類が仕上がるのだろうか?
スクアーロの心の重みが増す事に比例し、雨脚も増していっていた。