友達以上、恋愛対象。
□急接近
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サラサラの紫色の髪。ぱっちりとしたルビーみたいな瞳。雪のように白い肌。精巧に作られたフランス人形でも、比べものにならないくらい綺麗な君。高嶺の花って言葉は、君のためにあるんだと本気で思った。
だから君は、こんな僕の事なんか気にもしてくれないと思っていた。
…あの時までは。
「…はぁ」
トレミーの振動音だけが響く自室で、僕は何度目かも分からないタメ息をついた。すぐにまた静寂に包まれた部屋の天井を、ぼんやりと見上げる。
すると痺れを切らしたのか、もう一人の僕、つまりハレルヤが突然喋り出した。
『あーったく!さっきからタメ息ばっかつきやがってよ!!聞いてるこっちがテンション下がるってーんだよ!!』
「ハレルヤ…」
『部屋が二酸化炭素で埋め尽くされる前にきいとくが…なんでんなタメ息ばっかついてんだァ?』
どうやらハレルヤは、僕がタメ息をつき続けていたのがイライラしたらしい。珍しく聞く姿勢を示している片割れに、僕は躊躇なく言った。
「どうしてティエリアって…あんなに可愛いんだろう」
『…は?』
返って来たのは素っ頓狂な声。聞こえなかったのかな、と思って再度繰り返す。
「だから、ティエリアってすごく可愛いでしょ?男の子じゃないみたいだよね」
そして最後にまたタメ息を一つ。あ、また怒られる!と思ったのもつかの間、ハレルヤの微かに震えた声が脳内に響く。
『ア、アレルヤ…それマジで言ってんのか?』
「当たり前でしょ。嘘ついてどうするの」
『だ、だっておま…ティエリアってあの紫ピンク眼鏡野郎だろ?あんなやつの何処が可愛いんだよ!!』
「な、何言ってるんだよ!可愛いでしょ!髪はサラサラだし、目はぱっちりしててウサギみたいだし、いつも無表情だけど、笑ったらもっとかわいいと思うよ?」
「…おい」
「大体、ちゃんとティエリアを見てから言ってよね!ハレルヤは分かってないだけだよ!」
「…っおい」
「え?マルチーズ?そんなの比べられるわけないでしょ!ティエリアのほうが断然」
「ッアレルヤ・ハプティズム!!!」
「はいぃぃっ!?」
瞬間、GNバズーカで心臓を打ち抜かれたような衝撃が走り、僕は情けない声を上げてしまう。恐る恐る声がした方を振り向くと、そこには本来ならば絶対に来ることのない人物が立っていた。
肩で息をしつつ顔が真っ赤、というオマケ付きで。
「…脳内会議は終わったか?」
「ティ、エリア…どどど、どうしたのっ…?」
突然声をかけられたことの驚きと、予想外の訪問者出現によるダブルパンチによって、僕はもうパニック状態。
そんな僕の様子を見たティエリアの表情が、微かに和らいだ。それを見た瞬間、何故か僕はドキリとした。
「落ち着け。別に取って食おうなんて思ってはいない。」
「え、あ…うん」
ティエリアが髪を耳にかけた。その動作がやけに綺麗で、僕は思わず魅入ってしまう。
視線を感じたのか、不機嫌そうな顔でなんだ、と
言ったティエリアの声で、僕はハッと我に返る。
「え、えと…何か用かな?」
僕の部屋に来たってことは、僕に用があるってことだよね、と勝手に解釈したのだけど、どうやらその通りだったようで。
「あぁ、そうだ。忘れていた。」
そう言うや否や、ティエリアはトンッ、と軽く床を蹴り、あろうことか僕の方に進んで来た。
そして雪のような白い手が、僕の前髪に覆われた頬、つまり右の頬に添えられた。
「え、ちょっティエリア!?」
「黙っていろ。」
顔が近い。もの凄く近い。ティエリアは僕の左目をじっと見つめてくる。
黙っていろと言われたので大人しく黙ってはいるが、心臓がもちそうにない。きっと顔も真っ赤だと思う。
「アレルヤ…」
「ッティエリア…」
突然いつものフルネーム呼びとは違う、名前だけで呼ばれたもんだから、僕の心臓はもうドキドキ音が聞こえそうなくらい高鳴っている。
…が。
ぐいぃぃっ!!!
「痛たたたたた!!痛、痛いっ!!!」
なんの前触れもなく頭皮に激痛が走り、じわりと目尻に涙が浮かぶ。
何が起こったか分からずパニクっている僕に、やけに落ち着いた声がかけられる。
「ふぅん…これがオッドアイか。」
え?何?今なんて?
オッドアイ、って…
ようやくパニックから立ち直った僕は、現状を理解して青ざめる。
普段隠されている右目はティエリアの手によって現にされ、真っすぐなルビーの視線に銀と金が捕われた。