隠の王

□ここに居て
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「ねえ、宵風、」

俺と宵風が眠りについたのは同じ頃。
俺はもうとっくの前に目が覚めていたけど、宵風が耳に心地良い寝息をたててすーすーと眠るものだから、すっかり起こし損ねてしまっていた。
だけど、もうそろそろ起きてくれたっていい筈だ。

「宵風!」

さっきより大きく名前を呼んで、肩を揺すってみる。
さらさらした髪の毛が宵風の顔にかかり、僅かに眉間にしわがよる。

「ん……みはる……?もう起きたの?」

いつもの声とは少しだけ違う。
ちょっと眠そうで気だるげな声。

「今日は、俺に付き合ってくれるって約束した」

「うん、した」

横になったまま、宵風は目線だけを動かして落ちていた帽子を拾う。

俺は宵風にかかっている毛布を接ぎとって、両手を大きく広げて畳んでいった。

「だけど壬晴、外は雨だ」

漸く起き上がり、手にしていた帽子を被った宵風の視線の先、
半分カーテンのかかった窓の外は、バケツをひっくり返したかのような豪雨だった。

「だったらここで話をしよう」

「そういうの、僕は苦手だ。
壬晴は僕の中で特別なところはあるけど、一日中話をするのは嫌」

宵風らしい、と思う。
俺は宵風とならいくらだって話ていたい。
だけど、話す事を前提に話をしようとすると話題はすぐに尽きてしまうものだ。

だから、
「黙っててもいいよ、俺が話しをするから。
だけど俺のことだけを考えていて」

「それじゃあ壬晴が疲れるだろ」

「そのうち俺も黙るから」

「それで二人してここに居るの」

「そう、一緒に居るだけ」

宵風との沈黙は、苦しかったり、寂しかったり、温かかったり、嬉しかったりする。
宵風が辛い事を考えてるのが伝わってくると、沈黙を壊したくて仕様がなくなる。俺も辛くなるし、その時宵風に俺は見えていないから。

だけど、俺が近くに居ることを分かってくれてると感じたらほわほわした気持ちがする。

「傍に居るだけ……」
宵風がぼそりと呟く。

そんなの意味がないとか、僕に近寄るなとか、そんな事を言われそうな気がして、
うん、と頷いた俺の声は掠れていた。

「ずっとそんな時間が続けばいい」

ふわ、と微笑んだ宵風のその笑顔は、とても柔らかくて優しかった。
嬉しいのと、切ないのとで心臓がニャーってなった気がした。














ここに居て
(じゃあ俺がかなえてあげようか、)(嘘だよ、ちゃんと分かってるから)














080611

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