隠の王

□天然時限爆弾+大きな嘘
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宵風といると辛い。
宵風の事が大好きだから、だから辛いんだ。

風が吹けば飛ばされそうに細くて、体調が悪いのか顔色は青ざめている。
もう自分さえも見えていない、
自分がここに居ることも分かっていないようなそんなどこを見つめているのか分からない瞳。

気羅によってどんどん蝕まれていく命。
垂れ流される宵風のそれを、留める事が出来る。
そんな力を持ちながら、俺は宵風を消そうとしている。
宵風の意志が動かないことを感じているからだ。


だけど少しだけ我儘になってもいい?










天然時限爆弾+大きな嘘



「もう時間がない、

時間がないんだ」

宵風が焦った時、ちょっとだけ俺はその心を覗くことが出来る。
滅多に感情を表に出す事はないから、こういう時には少し不器用になって隙が出来るから。

宵風はよく焦りを口にするようになった。

迫る死期を感知しているのかもしれない。

持ってあと二ヶ月、と聞かされた時から、もう一ヶ月も経っていた。

進展がないわけではない。

つい、昨日も、俺は夢の中で妖精さんに会った。
迷いがあってはならない、決断しろと、そんな事を言っていた。

俺の心は大分傾いている。
宵風の意志を無視して、生かしてしまおうと。

だから自分の心を決める為と、
出来れば宵風と同じ思いになれたら、と。
そんな気持ちから始めようと思い立ったのだ。

偽りの一週間を。

その間に俺は決断する。
宵風が気羅で死んでしまう前に、俺は森羅万象を使わなくてはならない。









「昨日、妖精さんが夢に出てきたんだ」

俯いていた宵風が、僅かに目を見開いて俺を見る。

「それで?」

「うん、宵風がね、」
宵風が、一度でも『生きたい』と思う事が出来たら宵風が消えるのを手伝ってくれるって。
時間をくれたよ。

俺の言葉に、宵風は一瞬絶望したようだった。

だけど俺の肩をつかむと、

「それさえ出来ればいいんだな、
じゃあ壬晴、協力して。
僕には方法が分からない」

消える事の為に、生きたいと思え。
そんなの嘘の条件。
生きたいと思ったとたん消えなくちゃいけないなんて残酷でしょう。

だけどこの一週間、
もしも宵風の心を動かす事が出来たら……。
何より宵風が協力的であればこそやりやすい。

ごめんね、嘘を吐いて。
約束を破ろうとして。
君に生きて欲しいと思って。

全部俺の我儘なんだ。
俺は宵風と笑って未来を過ごしたい。

だから、

「協力するよ。絶対。
頑張ろう、宵風」






080624次あとがき


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