隠の王

□それがどんな形でも
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※未来捏造失恋注意

「久しぶり」
少し背の伸びた、だけど顔立ちはあまり変わっていない、何年かぶりに会う壬晴。
僕を闇の中から引きずり出して、眩しいくらいの生を与えてくれた。
あれから大分会えなかった。
その間に僕も変わっていった。
壬晴への想いはより大きく、抱えきれない程に膨らんで、
だけど壬晴が僕を見てほほ笑んだ瞬間、その笑みが妙に大人びたものに変わっていて、内心動揺した。
踊り狂っていた胸が、止まったような気がした。
それでも、こうして顔を合せられたことへの喜びが再び鼓動を急かす。
「壬晴…、変わったね」
「宵風もね」
暫くお互い立ち尽くしたまま、沈黙だけが流れた。
心地いいようで、それでいて緊張も含んだもの。
やがて壬晴が石段に腰掛け、僕もその隣に座る。
「宵風がちゃんと生きててよかった」
静かに言う壬晴は、それほど前ではないというのに、
ずっとずっと前の記憶をたどるみたいに、萬天の空にどこか遠くを見ていた。
「だって約束しただろう、次君に会うときまで死なないと。
壬晴の為に生きると」
「……そうだね、宵風が生きててくれて嬉しいよ」
両の手をすり合わせるようにして何事か言いにくそうに地面を見つめる。
僕は黙って壬晴の言葉を待っていた。
いや、何となくざわつく胸に、言葉が出なかったのか、久々の再開に戸惑っていたのか、兎に角僕はただ壬晴を見ていた。
「俺はこれからも宵風の支えになれる。なりたいとも思う。君の気持ちには気づいてるんだ。
卑怯かもしれないけど、友達として、君の傍で支えていきたい」
時がたてば、離れてしまえば想いは変わる。
現実なんてそんなものなのか。
壬晴の言葉がゆっくりと頭の中を通り過ぎて、虚ろな思考が僕に応えを急かす。
あの時は、お互いしかなかったのに。
僕は、君に依存したまま、今も。
「誰か、いるのか」
大切な人が。
ゆっくりと壬晴が頷くのに、僕は胸も痛まなかった。
ただ、腰かけている筈の石段の間隔がなくなって、どこまでも落ちていくような気分だった。
「そうか、だけど…僕は君が居なくちゃ生きていけないから、
なるべく近くに居てほしい」








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080729
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