隠の王

□そんな約束はしない
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寂しい、


とても寂しいんだ。



心の中はガラガラで、
真っ暗でっぽっかり何もなくて、
それでも抱え込んで包み隠してきたものが、
渦巻いて
蝕んで、
だけど全部を包み込んで赦してくれるような温かいものが、
僕には一番苦痛だ。


優しくされるのは、寂しい事よりも、

もっと苦しい。


戸惑いと、
ほんの少しの喜び、
そして怒り。

どうしようもない恥辱心と、
それから惨めな気持ち。

優しさにどう触れて良いのか分からない。
苦しいのに、どこかそれを求める気持ちもあって、時々それに気付いてうろたえる。


もう僕は、
僕に冷たい世界でしか生きていけないのかもしれない。

「寒いから」

僕と壬晴は夜の公園に居た。
任務の帰り、ゆきみの迎えを待っている。

差し出されたマフラーに、またよく分からない気持ちになって何もせずに居ると、壬晴がそれを巻き付けてきた。
自分の心なのに、よく分からない。

どこか遠くからクラクションの音が聞こえてくる。
公園には大した遊具はなく、申し訳程度の砂場と、あちこち錆びて塗料の剥げたすべり台に、雲梯と、それから僕達の座ってるベンチ。
生ぬるい風のふく夜だった。
それでももうすぐ冬が始まろうかという季節だ。マフラーを使う程には寒いのかもしれない。(僕は厚着だからよく分からない)
星も月もみえない、ただ真っ黒な空。

夜の闇、

じっとじっと、
視界を闇だけで満たすと、あたかも自分が闇に飲み込まれてしまったような感覚に陥る。
目を閉じてみても、そこにあるのは同じ闇。
ひたすらに黒い世界。
僕という枠が崩れ、存在が溶け出して、
僕はどこにも居ないんじゃないか、そんな気さえしてくる。
気分が高揚しているわけではない、寧ろ、心地良いほどに穏やかに落ち着いている。

「宵風、」

つんつん、と手袋をした壬晴の指に突付かれて、
冷ややかに意識が戻ってくる。

「何、」

「ちょっと待ってて」

それだけ言って立ち上がった壬晴に、僕は壬晴の傘を持って追いかける。(昼間は雨だった)
何かあったら心配だ。

ふと、そこで違和感を感じた。

――心配。

僕が壬晴と居て、壬晴を守るのは、秘術が壬晴の中にあるから?
そう思っていた、だけど、違うのか、

僕は秘術を持つ壬晴の心配をしたのか、
それともただ、壬晴の事が気にかかったから?

壬晴が立ち止まったのは、公園の入り口。
たくさんベンチと、名前は分からないけど小さな木が植えてある、自動販売機の前。

「宵風、朝飲んだ時から、何も飲んでないでしょ、」

そうしてずいっと缶コーヒーが手渡される。
手袋ごしでも、それは温かかった。

冷汗をかく程に。

何故だか、ぐびぐびと飲み始めた壬晴の方を向けない。


「僕のことなど気に掛けるな……!」

僕はお前に優しさなど求めていない。

僕は、
お前の仲間を人質にとって、強制している。
お前が僕の傍に居る事を。

人を1人消すという、重荷を背負わせている。

僕は何もしてやれないというのに。


何故僕に優しくする、

「宵風の考えてること、オレには何となく分かるよ、
オレも同じだから」

ぐっと缶を握り締め、伏し目がちにそう言う壬晴。

「何が分かる、僕とお前に共通する心などない」



「優しくされるのが苦しい、だけど寂しくて、
それなのに他人を受け入れられない」

「――…っ、」

どうして。

見透かされていたのか。

唇を噛み締め、動揺の波に耐える。
滲む血が、より自分を惨めにする気がした。

「だけど、オレは、
宵風なら受け入れられるんだと思う。

多分、オレと似ているから」

「僕に近づく程にお前は傷つく」

それはもう、既に、
これ以上は傷つけたくないんだ。

ある程度の距離を保って、そうしている事が僕達には一番いいように思う。

「かまわない、宵風だって、オレの事で傷ついてる」

真っ直ぐと僕を見る壬晴の目は力強く、そして揺れていた。

僕は他人の心なんてよく分からないし知ろうとも思わないけど、それでも、
他人に無関心な壬晴が、ここまで踏み込んでくるのにどんな思いだったのか、
考えてみるともやもやと胸が痛くなった。

「なるべく傷つけたくないんだ、

(だから、お願いだ)早く僕を消してくれ」















そんな約束はしない
(その言葉がオレを一番傷つけてるってどうして分からないの)












080523
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