隠の王

□僕は君がだいすきだ
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目線が合わない、

僕が近寄ると、壬晴は逃げてしまう。


嫌われる事には慣れていた。
だけど、壬晴だけには嫌われたくない。

僕が壬晴に背負わせてしまっているものを考えると、
嫌われてしまって当然かもしれない。

でも、笑顔で傍に居てくれたのに、
僕は、何かしてしまったんだろうか。

「みはる、」

僕の姿に気がついて、ハッとしたように遠ざかる壬晴を呼び止めると、
その細い肩がビクリと揺れた。

「何、宵風、オレ、急いでるんだけど」

さっきまでうとうとしていたというのに?


壬晴の言葉に構わず、その腕を掴んで壁へ押さえつける。
喉元を人差し指でなぞる。
これではまるで脅しだ。だけど、僕はこういう時こうするしか方法を知らない。
相手の気持ちを聞きだしたい時。

「何故、」

「……雪見さんに呼ばれてて、」

僕の言葉を『何故急いでいるか』と受け取ったらしい壬晴に、
僕は次いで言う。

「何故僕を避ける」

見開かれた壬晴の目が、動揺に揺れる。
唇を噛み、何度か口を開きかけ、それでも言葉が出ないらしい。

「言え」

喉に当てた指に、力を入れる。
壬晴が苦しくない程度に、としたはずだったのが、
自分で思っていたより僕は興奮していたらしい。

小さく咳き込む壬晴に、僕は立ち竦んだ。

「み、はる……」

僕はただ、傍に居て欲しくて、

他の誰に嫌われても構わない、

だけど、




どうしたらいいのか分からなくて、


「だいじょうぶ、大丈夫だよ、宵風、」

小さな咳を押し殺すかのようにして、壬晴の小さな手が僕の頬に触れた。
その手には、飯綱心眼を使うあの女に暴走した僕の気羅によって出来た傷。

「ごめん、みはる、ごめん……」

「うん、オレも、独りにしてごめん」

僕達の周りには人が居ないわけではない。

だけど、僕は本当にひとりぼっちになってしまったような気持ちだった。

「宵風と居ると緊張して、どうしたらいいか分からなくて戸惑ってた」
嫌いじゃないよ、オレは宵風がだいすきなんだ、と。

好き、と言われて多分嬉しかったんだと思う、
何か答えようとして、
自分の気持ちが言葉にならない事に気がついた。

大切で、
守りたくて、
でも傷つけてしまって、

「僕は壬晴が居なきゃダメになってしまう」












僕は君がだいすきだ
(僕にはそんな資格はないというのに)












080523
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