隠の王

□いつでもいらっしゃい
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「退屈だから」

片手にコンビニの袋をぶら下げて壬晴がやってきた。

「宵風ー、誰だった?」

奥からゆきみの声が飛んでくる。
パソコンに噛り付いたまま出てこようとはしない。

「ここに来ても楽しいことなんてないと思うけど」
ゆきみには返事をしないまま、壬晴の手を引いて玄関からあがらせる。

「宵風が居るから来たんだけど」
壬晴にぎゅ、と強く手を握られて、僕は慣れないこの気持ちに俯くことしか出来なかった。

「あのねー、ここはお前らがいちゃいちゃする為の場所じゃないのー
俺は忙しいんだから、せめて静かに――」
ゆきみが最後まで言い終わる前に、壬晴が手にしていた袋をずいっと突き出す。

眼前のそれを一瞬目を丸くして見ていたゆきみだったが、暫くすると引き攣ったような笑みを浮かべた。

「仕事、忙しくて何も食べてないのかもしれないと思って。
必要ないなら俺と宵風で食べる」

袋の中身は大量のお菓子に缶ジュース、栄養ドリンクなんかが詰まっていた。

「計算高いガキだ」

「それほどでも」
にこやかすぎる笑みを振りまいて、壬晴はくるっと僕に向きなおった。

「どうせ明日からの任務で一緒に過ごせるだろう」

「だけどそれじゃ雷光さんとか雪見さんも居るでしょ?」

「ここにだってゆきみは居るよ」

僕の言葉に声を詰まらせた壬晴は、聞こえないくらい小さな声で呟いた。
宵風に会いたいから来たんだよ、と。

「迷惑だった?」

「いや……僕も会いたかったから」

途端に壬晴は僕がまともに顔を合わせられないくらいの
周りに花でも飛びそうな笑みを浮かべた。

「あのぉ、一応俺も居るんですけどね」
菓子の箱を開けながらゆきみがため息を吐く。

「もうちょっとだけ空気になってて」








いつでもいらっしゃい






080728
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