隠の王

□どうか、持ち直して。
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背中に熱を感じるくらい、
毒々しく紅い、どこか自分の中の大事なものを燃やされてるみたいな
そんな厭な夕焼けをみたことがあるかい?




宵風が行方を晦ましてから一週間がたった。
首領に頼まれた先輩への届け物、
行ってみたら先輩は表の仕事に出ていて、壬晴君がぼぅっと窓の外を眺めていた。
差し込むオレンジの光に少しも目を細めないで、機械で出来たみたいな冷たい声を絞り出した。
「宵風は俺と約束を置いてどこに行ったんだろう」
カサカサに荒れた唇は切れて血がにじんでいる所もあった。
私が居るのを分かっていて、一度も此方を見ない。
生きていれば(この表現は私の醜い嫉妬心が滲み出たものかな)
どこかで同じ光を浴びているであろう宵風に思いをはせているのか、
夕日に照らされた壬晴君の瞼が愛しむように閉じられた。
「心配かい」
無言での肯定。
「ならば追いかければいい」
小さく首を振るその表情がひどく痛々しいもので、
私は嬉しいのと宵風が羨ましいのとで息が詰まった。
「私がここに居るから、君は宵風を追いかけないと、自惚れてもいいのかな」
夢の中に居る気分だった。
汚い先輩の部屋は、淡いオレンジで包み込まれていて、
壁に貼られた無数のメモも、今は電源を落としているパソコンも、それから私たちも、
……宵風が居なくなってしまったという事も。
全て毒々しくも優しいこの色が、現実感を失くしてしまうのに、
何故だろう、どこか寂しくて悲しい。
「雷光さんとの繋がりと宵風との繋がりは違います」
抱えていた膝に顔を埋めて、
何かを断ち切るかのように
痛みを伴っているようなそんな声色で
「宵風は俺が救わなくちゃいけなかった」
「……そう、」
じゃあ、君と私の繋がりとは何だい?と尋ねかけて、
思い至ったその瞬間、自然と口元が弧を描く。
「壬晴君の事は私が面倒をみさせてもらおうかな」
君は私が救ってみせよう、
君に宵風は必要ない、私が居ればそれでいいじゃないか。
胸が厭に熱い。
窓の外に目をやると、夕日は半分沈みかけていた。





どうか、持ち直して。











080817
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