【胎動編】最後の時間

□【間幕劇】見えない姿
1ページ/13ページ


空にかかった厚い雲。光の恩恵がなく、昼夜の区別が曖昧な世界。

だが政府にはスラムと違って機械仕掛け時計による明確な時間というものが存在する。

規定業務終了時間はとうに過ぎ、本来は睡眠に宛てる筈の時間。




人目の心配なく作業に没頭する補佐官の姿は研究資料室にあった。




調べ事をしているという訳ではない。

そこを選んだのは集中する為の静かな空間と広い机が欲しかった。




彼が一人で占領している大きな机の上には色々なものが置かれている。


まず机の右側を陣取っているのは数冊の絵本。



外出許可を取り、どの部署でも利用可能な一般区画(フリースペース)の図書館から借りてきたものだ。



研究技術部には充実した備品、沢山の書籍や資料文献は揃っている為所属員が外出することは少ない。何しろ庭やカフェテリアまであり、一生此処から出ずに暮らす者が居るのではないかと思えるほど整った環境だ。空調も電力供給もこの研究技術部は自力での運営も可能らしい。貰えるものは貰う方針らしいけど。


そんな至れり尽くせりな部署をわざわざ許可申請してまで離れたのは探しているものが自分の部署にはなかったからだ。








青年が探していたのは児童向けの絵本。


もしそんなものが堅物揃いの研究技術部にあったなら、それはそれで目の前がクラっと来そうだ。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ