宝物(小説)

□カクテル
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カクテル
今日は久々に兄と一緒に帰れる。
中央司令部に勤務になってから兄と帰宅できる日は東方司令部時代より格段に少なくなった。

あの無能…!と兄はよく言うがまったく持ってその通りだと思う。
なんとなく無言で二人で歩く。
このままずっと歩き続きたい気分だ。

「あっ」っと思ったときは、既に腕を引かれ、精一杯背伸びした愛しい兄にむさぼる様に口付けられていた。

セントラル郊外の路地裏、切れかけた街灯、剥がれ落ちたレンガ壁、少し肌寒い外気…

すべてが薄い膜の向こう出来事のようだ。

腕の中にすっぽり納まるしなやかに熱く脈打つ身体。
甘い口付け。
軽い酩酊感…

ふっと離れ…
軽いキスをいくつか交わし…
ぎゅうぎゅうと抱き合う。
お互い額をくっつけたまま笑いあった。

そして当初の目的通り馴染みのバーに向かったのだった。


***
カラン カラン…
「いらっしゃいませ…」
 かつて一緒に働いていた仲間。
今はカウンターの向こうにたたずんでいる彼は軍を辞めた今でも一番危険な人物だと思う。

 兄をさりげなくエスコートし少し細身のバースツールに腰をかけさせる。
行儀悪く足をぷらぷらさせているのを膝に手を乗せることで止めさせ、自分も隣に座った。

「何に致しますか?」
 声は甘く低く、端正な顔立ちと、涼しげな目元が女性客にウけるのだろう。
店内の雰囲気も良いため、いつもほどほどに客が入っている。

「そうですね…」
 わずかに考えて…
「では…〔キスオブファイヤー〕を…」
 少し意味深長に微笑み注文する。
…この相手は油断がならない。
いくら牽制をかけてもしたりないと思っている。


注文を受けて0.5ミリほど黒い眉が上がったが…
「少将?」
 ご注文は?
 ソレを気取らせたりさせない。 

「…〔パラダイス〕を…」
 さっきのキスを思い浮かべての事だろうが、ほんのり目元を薔薇色に染め、恥ずかしいのか少々上目使い…

ボク以外の人間にそんな顔するな バカ兄!
・・・でも今回ばかりは寛大な心で許せそうだ。
この顔はボクのせいなのだから…

カウンター向こうのバーテンダーが無表情に『イラッ』としたのが判る。
いい気分だ。

「兄さん、よくカクテルの名前なんか知ってたね」
 ワザと耳元に口唇を寄せ話しかける。
くすぐったいのか クスクス と弾ける様に笑う兄。
まるで黄金色に光を弾くシャンパンのような笑みに、その光が届く範囲にいた客達の耳目を集める。

ほぅ…

と 誰かがついたため息が静かな空間に満ちた。




おわり

なんとなく思いついて書いてみました…
中央編?
バーテンさんは例の人です…




☆☆☆☆☆☆
椿さま、ありがとうございました!ジェイソンステキです(笑)仁太は地味で平凡です〜信じて!!(笑)

いや、つまんない人間ですよ〜うふふふふふ…

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