宝物(小説)

□花びら詣で
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 正月2日。今日一日は店を休みにして、初詣に行くつもりだった。昨日も明日からも仕事だけど、一日くらいはお正月気分を楽しみたい。
 予め頼んであった店に朝早く行き、この日のために選んであった衣装に着替え準備した。アルフォンスには内緒だったので、気づかれないように家を出るのがタイヘンだった。
 時間をかけ、ようやく整い自宅に戻った時には、アルフォンスが雑煮の用意をしてくれていた。
 玄関を開けると、ダシの良い匂いがする。
「兄さん?どこ行って…」
 キッチンから顔を見せたアルフォンスが、ピタリと止まってエドワードを見た。
「…に、似合わないか…?」
 何も言わないアルフォンスに、やっぱり普段の服のほうが良かったかと悲しくなった。
「か…」
「か?」
 ふるふると震えはじめたアルフォンスに問い返す。
「可愛い!可愛い!可愛い!!すっごく可愛いっ!!!なんで!?なんで着物っ!?」
 普段絶対に女装は嫌がるエドワードが、目にも鮮やかな赤い着物で髪もキレイに結い上げていた。
 金の髪に、着物に合わせた赤い簪が良く似合う。
「…だって…一緒に初詣デートしたかったから…男二人じゃ、おまえ、様にならないから…」
「僕のためになんだ…」
 こんな正月を迎えられるなんて。生きてて良かったと、ジンとするアルフォンス。
 それにしても可愛い。
 可愛すぎる。
 これで『兄』なのだから、世の中間違ってると思うが、アルフォンスにすればそんなことはどうでもいいことで、目の前の赤い着物の天人に魂を奪われていた。
 等価交換と言われれば、魂100個くらい差し出してしまいそうだ。
 いますぐ脱がせたいという衝動を、気合いと根性で押さえつける。
 いったいどうやって、お節やお雑煮を食べたのかも覚えていない。
 ソレを思い出したのは、玄関に向かう寸前。
「ねえ、兄さん。その下、下着どうしてるの?」
「下着?普通の…」
 いきなり何かと、小首を傾げるエドワードに、
「ダメだよ!着物の時は、下着のラインが出ちゃうから、ノーパンなんだよ!」
と、言う。
 案の定、
「えー、ノーパン!?」
と渋い顔をするエドワードに、
「せっかくソコまで完璧な和装なんだから、下着も脱いじゃってよ。ほら、早く」
と畳み掛けた。
「えー…」
 渋るエドワードが深く考えないうちに、早く早くと急かしたて、下着を脱いで貰った。
「大丈夫だよ。見えないから」
「う、ん…」
 すーすーする下肢を気にする兄の手を取って、家を後にした。
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