toy ring

□toy ring
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「わあ〜キレイね、アルフォンスさんのネックレス」
 今、天才子役といわれている女の子エミリにそういわれて、アルフォンスは腰を屈めた。
 たった今、連続ドラマの一話目の収録が終わったところで、二人のドラマでの関係は兄妹となる。

「そう?ありがとう。コレ、指輪だけどね」
 チェーンに繋がった指輪を見せてやると、女の子は輝いた目でそれをみた。
「アルフォンスさんのカノジョに貰ったの?」
 そんな純粋な目で見られる。
「まあね。でもナイショだよ」
 そういって片目をつむると、女の子は、にこっと笑った。
「おい、アル。雑誌社の方が見えたぞ」
「はい、今いきます」
 エドワードが呼びに来たので、アルフォンスは別室にむかった。

 エミリが、持っていた台本をばさ、っと落としたので、エドワードがそれを拾ってやるために、屈む。
 ふと、女の子の目に止まったものは、首筋に光るネックレス。
「あ、コレ…」
「ん?」
 女の子がエドワードのネックレスを襟に隠れていたのを引き出す。
「どうした?」
 ネックレスの中央にあるのは、二つの指輪。
「コレ…」
「ん?コレがどうかした?」
 エドワードがそう聞いた瞬間、ぎゅっとそれをひっぱられた。
「わっ!」
 そのまま強い勢いでひっぱられて、ぷつり、と切れてしまう。
「あっ」
 首が痛んだが、エドワードはそれかまうことなく女の子が握っている二つの指輪に目をむけた。
「ちょっと、それ、返してくれないかな」
 返せこのやろう、と叫びそうだったが、相手は6歳の子どもだ。
「欲しい」
「えっ」
「これほしい〜!」
 と急に泣き出したのだ。
「えっ、ちょっと…」
 まわりのスタッフが何事かと集まってきた。
「それ、お兄ちゃんの大事なものなんだ。返してくれるかなぁ」
 極力優しく言ってみた。
「やだぁ〜」
 と号泣し始めて、エドワードもオロオロだ。
「ねえ、エルリックさん。この赤いおもちゃくらいはいいんじゃないの?」
 とスタッフの一人に言われた。
「え、そ、それ…」
 両方大事なんだけど、と言おうとしたが言えるような空気でもないし、大勢のスタッフに囲まれている。
「ほら、エミリちゃん、その銀色のは返してあげて」
「やだ〜」
「このおもちゃのだけ、もらったら?」
 勝手なことをいう女性スタッフに、エドワードはどうしようか悩む。
「あの、両方大事なんだけどさ…」
「いいじゃない。おもちゃなんだし」
 おもちゃとか、プラチナとかそんなの関係ないんだけど!と喉まででかかったが、
「わかった」
 子役のエミリははい、とプラチナの指輪をエドワードに渡したのだった。
「そっちは?」
「これは、キレイだから欲しいの」
 確かに、ルビーを模ったおもちゃだが、メッキもはがれてるし、プラスチックでできている。だけど、それはエドワードにとって一番といっていいくらいの宝物だ。

「エミリちゃん、次の仕事行くわよ」
「はーい」
 子役は顔をあげて、そう返事をする。そのとき、にや、っと子どもにあるまじき笑顔で踵を返したのだった。


 うそ…。
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