宝物(小説)

□誕生
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 その日オレは妙にそわそわした親父と一緒に母さんの寝室から追い出されていた…ような気がする。
 ピナコばっちゃんがバタバタと動き回って、ウィンリィのお母さんも何度か寝室へ出入りしていた…ような気がする。

 さっきから気がしてばかりだがそれもそのはずで、なんといってもオレ自身がまだ一歳になってもいない時の記憶なのだから、覚えていることのほうが奇跡といっていいだろう。
 

 その時だったと思うんだが、オレには天から降りてくる天使みたいなものを見たんだ。これだけは「気がする」んじゃなくて、「見た」なんだ。

 その天使みたいなものの顔ははっきりしない。ただ、オレの顔を見てにっこり微笑んで、スーッと母さんの寝室に消えていった。そしてすぐに、産声があがった。

 慌てふためいた親父がドアを開けて飛び込んじまって、ピナコばっちゃんに叱られたっていうのは、後々ばっちゃんから教えられたからこれも断定できるんだけど、その時、親父の腕に抱かれたオレの目にうつったオレの弟は、あまりにも可愛くて、ほんとにちっちゃくて、食べちゃいたいくらいだったなぁ。



「で、食べちゃいたいくらい可愛かった弟に、逆に食べられちゃってるんだ?」


 
 今オレの目に映っている悪魔のように真っ黒なオレの弟は、天使から悪魔にかわってしまったにしても、やっぱり可愛くて、食べちゃいたい…いや、食べられちゃいたいくらいだと思う……兄の欲目だろうか?

 祈る神はないけれど、アルをオレの弟にしてくれた神様には、感謝してる…うん。
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