宝物(小説)

□driving with my brother
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「…って言ったのに、ここどこ?」
「どこだろうな…」

スタートして3時間。見知らぬ田舎道で途方に暮れる二人。

「ナビ付きだったらよかったのにね。」
「ナビはアルだろ?」
「地図も何にもなしでナビしろったって無理だよ。だから途中コンビニ寄ろうって言ったのに…」
「バカ!コンビニの駐車場狭くて大変なんだぞ!」
「でも迷うなんて……あ、兄さん、オーディオ止めて。」
「ん?なんで。」
「いいから。」

エドワードがオーディオのスイッチを切ると、うっすら聞こえていた音がハッキリ聞こえて来た。

ザザーン …

「「海だ!!!」」

二人が道の脇の雑木林をかき分け進むと、そこには誰もいない砂浜。

「やったあ!着いた〜!!」
「ほら着いたじゃねえか!」
「いや…明らかに目指してたのここじゃないでしょ。たまたまだから…。」
「たまたまでも着いたじゃねえか!オレすごくねえ?」
「…どれだけポジティブなんだよ兄さん。まあいいか。じゃあ荷物運ぼうか。」

そう言ってアルフォンスが振り返るとそこにはエドワードの姿はなく、ちょっと目線を先に送ると波打ち際に走っていく後ろ姿。

「兄さ〜ん!」

アルフォンスが大声で呼ぶとエドワードはようやく振り返り、満面の笑みで大きく手を振りながら答える。

「兄さ〜ん!まだ海は…」

アルフォンスの「冷たいよ」というセリフが届く前にエドワードの膝から下はずぶ濡れ。

「ああっ!兄さん…」

エドワードは全く気にする様子もなく、波打ち際で遊んでいる。

「寒くないのかなぁ?…荷物運んで来なきゃ…」

アルフォンスは一旦車に戻り、荷物を降ろす。
砂浜に戻るとこちらに向かって歩いて来るエドワード。
先程よりもかなりの濡れっぷりだ。

「アル〜まださみいぞ。」
「……知ってる。」
「なんだよ。知ってんなら早く言えよ。」
「ボクが言おうとしたら、もう兄さん入ってたんだよ。ほら、濡れたの脱ぎなよ。車からブランケット取って来たから。今ホットコーヒー入れるよ。」
「さっすがアル!ほんとに保護者みてぇだな。」
「……コーヒーはボクが飲む。」
「待て!さみいんだって!コーヒーくれ!」
「ボクの保護者は兄さんなんだろ?全くしょうがないんだから…」

アルフォンスがエドワードにコーヒーの入っているカップを渡す。

「うわぁあったけぇ〜。」

ブランケットにくるまって、両手でコーヒーの入ったカップをもって嬉しそうに笑うエドワード。

―可愛いなぁ…ボクはどうしてこんなにこの人が好きなんだろう…

「ん?」
「なんでもない。」
「なんだ、あきれたみたいなため息ついて…」
「うん。自分にあきれてた。」
「え?オレじゃなく?」
「うん。自分に。」
「変なヤツ。」
「ほんとにねぇ。」
「なぁアル…腹減んない?」
「あ、空いた空いた!お弁当食べよう!」
「珍しいな。アルが腹減るの忘れるなんて…朝食い過ぎたか?」
「そんなに朝から食べないよ。お弁当頑張って作ったんだからね!」

アルフォンスが開けた大きな密封容器の中にはエドワードの好物ばかりがずらりと並ぶ。

「キムチは匂いが強いから別に入れて来たよ。」

アルフォンスはボストンバックから小さな密封容器を出す。

「ほんっとに気が利くなあ。」

エドワードはアルフォンスの頭を抱え込みがしがしとなでる。

「止めてよ。もう、わざとぐちゃぐちゃにするんだから…」
「ほら食おうぜ。うっまそ〜!ここんとこ、ろくなもん食ってなかったからな〜。」
「やっぱり…ちゃんと食べないとダメだよ。兄さん。」
「ん…だから今食ってるだろ?」
「今じゃなくて…ってそれボクの分もあるんだからね!あっ!唐揚げ全部食べたね!」
「アルがごちゃごちゃ言ってるからだ。」
「…ボクも食べる!」
「あっ!アル!待て!オレしょうが焼きまだ食ってねぇ!」
「唐揚げ食べちゃったでしょ!」
「早いって!こら!アル!」
「ごちゃごちゃ言わないで食べるからね。」
「アル〜!!」
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