宝物(小説)

□月艶(ゲツエン)
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「あ、ちょっと待って」
 可愛い服が安価で人気な『●まむら』の前を通りかかったとき、アルフォンスの足が止まった。
「『し●むら』か…オレもよく買うよ」
「え…じゃあ、その黒い服はもしかして全部『しま●ら』…?」
「『しまむ●』だけじゃねえ。『●ニクロ』とか『●ャスコ』とか…」
 アルフォンスがそんなに聞いてくる理由が分からないといったように、小首を傾げて瞬きする。
 猫みたいな仕草に、アルフォンスの胸はドキンと鳴った。
「ま、まあ…いいけど…」
 これからは、自分が兄の服を買ったほうがいいかもしれないと思った。
 ――だって可愛いのに、もったいない!
「兄さん、ちょっといい?」
「あ、ああ…」
 ずんずんと店内に入っていくアルフォンスを、呆然と見送った。


「やっぱり、似合う」
「…変だろ」
 あれから、買った物を抱えて戻ってきたアルフォンスに、エドワードは着てた黒いTシャツの上から服を被せられ着させられた。
 ミントグリーンの、スソが長いシャツ。
「オレにこんな色は似合わないだろ…」
「そんなことないよ。よく似合ってる」
 アルフォンスにしたら、顔がニヤケるのを堪えるのに必死だった。
 エドワードはちょっと長めのスソのシャツと思っているようだが、アルフォンスが買ってきたのはシャツワンピース。しかも、靴も「それじゃ暑そうに見えて不自然だよ」とサンダル履きにさせた。ワンピースと一緒に買った、一応レディース物だ。
 下は黒のスキニージーンズだったから、まあ良しとした。カーゴパンツとかだったら、レギンスに履かえさせてただろう。
 ――ヤバい…
 兄がこんなに可愛くなるとは思ってもみなかった。いや、今までも可愛い可愛いと思ってたが、明るい服になると、まるで花開いたように可愛い。髪を結んでいたゴムも、切れたフリして外してしまった。
 ――クセになりそうだ…
 やっぱり今後は兄の服は、自分がコーディネートしようと決心を固めていた。
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