toy ring

□toy ring 11
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「アルの幸せは、家庭を持つこと、か…」
 そうかもしれない。自分たちの描いてきた幸せな家庭像は、父と母がいて、兄弟がいて笑って過ごすこと。だけど、父が行方知らずになって、母が病死。そして、決して幸せだとはいえなかったあの頃の生活。
「……」
 何度、愛してるって縋ってきたんだろ。
 何度、愛されてるって思ってきた?
 それが、間違いだとは思わなかったけど…間違いなのかな。
 俺たちは所謂『不幸』だったから、そう勘違いしてきた?
 今日までの幸せは、本当は虚像にすぎなかった?

「アル…」

 だったら、自分がすることはただ一つだ。
 

「ただいま、兄さん」
 しばらく深い思考に入り込んでいたが、ふいに言葉が上からふってきて、エドワードは顔をあげた。
「あ、お、おかえり。飯どうした?」
「食べてないよ」
「そうか、じゃあ、何か作るよ」
「…うん」
 適当に食事を作って、テーブルに並べて、二人が着席するとアルフォンスがそのままじっとエドワードを見据える。
「?どうした」
「…今、エンヴィさんにテストの写真もらってきたんだ」
「ああ、そういえば、あのTシャツおまえんとこのだったか…」
「うん。それでさ、『ed』一本で生きていきたいようなこと、言ったんだって?」
 箸を止めて、エドワードはアルフォンスを見上げた。
「…そんな、断言じゃねぇよ」
「そうなるかもしれない、って…。マネージャーを辞めることに、文句は言わないし、それでもいい。兄さんなら『ed』でもやっていけるかもしれない。でもさ、生計を立てるって、どういう意味さ」
 エドワードは微かに視線を下げて、曖昧に笑う。
「そんな、おまえが気にするようなことじゃねぇって。それに、まだ辞めるなんて言ってねぇし…」
 すっと目を細めたアルフォンスの顔を見ることができない。
「あのさ…もしかして、だけど」
「…うん」
「この前の占い師の言うこと、信じてるんじゃない?」
「っ」
 エドワードの表情が変わったので、アルフォンスは「やっぱり」と溜息をついた。
「収録の後、兄さんフツウの顔してたけど、その時に気がついてあげればよかった。あの時の“フツウの顔”からおかしかったんだね」
「…『貴方の近くにいる人とは別れたほうがいい。あなたの本当の幸せは、これから訪れる。貴方の幸せは、家庭をもつこと。家庭に縁のなかった貴方だもの』そう言われて、凹まない方がおかしいよ…。それは、オレが疫病神だって言われてるようなものだから」
「どうして?僕は、今が本当の幸せだと思ってるよ?」
「コレから先、一年、二年、十年、二十年…そんな先、わからないだろ?その先に、おまえが家庭を持つ、というのなら俺は反対しない。そのときに、離れるのなら、今のほうがいいかなって思ってる」
「そんな先に何があるか分からないのに、離れるの?」
「家庭に縁がなかった。だから、おまえはそれを作ったほうが、幸せになれるかもしれないだろ?そう思ったんだよ」
「え?僕、一度も家庭に縁がないなんて、思ったことなかったけど」
「何いってんだよ。親父がいなくなって、母さんが死んで。これでも家庭に縁があるとは言わないだろ?」
 アルフォンスは、ふわりと優しく微笑んだので、エドワードはその顔に目をぱちくりさせていた。
 どうして、今そんな優しく微笑むことができる?

「何いってんの?兄さんは、家庭の一部でしょ」
「!」
「僕たちは、二人で家庭を作ってきたじゃない。昔と今。少しだけ、関係は変わっているけど、僕の家族は兄さんだけだし、兄さんだって僕は家族でしょ?兄弟の前に、家族だよ。いろんな意味で」
 キラキラと輝きが増えた目で、エドワードはアルフォンスを凝視していた。それは、涙が瞳を潤ませていたから。

「明日の夜、僕と一緒に行ってほしいところがあるんだけど、行ってくれる?」
「え?」
 にこ、っとアルフォンスは笑っただけだった。
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