リクエスト
□『貴方への手紙』
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長くて長い、暗い闇の夢から
やっと目が覚めたような気がした。
でも、一人じゃなかったから、僕らはここまで来れたんだ。
『貴方への手紙』
「アル!」
ちょっとはしゃいだ声に聞こえたのは、僕だけではなく、横にいた幼馴染のウィンリィも微かに口角を吊り上げた。
「起きれるようになったって!?」
兄は、僕が上半身を起こしているのをみて、目を輝かせたようだ。
「うん。やっとね」
苦笑をすると、兄は飛びつくようにそのベッドサイドに来てくれた。
「やっとじゃないわよ。早い方だわ」
僕が生身の身体を手にして、一ヶ月。つぎはぎだらけの兄の体と違って、僕は丸々向こうにあったから、キレイなままで。
「さて、私は下で仕事してるから、何かあったら言ってね」
「うん。ありがとうウィンリィ」
「サンキュ」
兄弟二人になると、僕は兄さんの取り戻した手足が気になって。
「兄さんは、もう手足は大丈夫?」
「ああ。俺は大丈夫。すこし、足が思い通りに動かない時あるけど、でもリハビリをしてるうちに治ると思う」
「そう…兄さんの身体は傷だらけだね…」
視線を下げた僕に、兄はその額を小突いた。
「イテ」
「俺の身体の傷なんて、おまえに比べたらたいしたことない。早く身体が動かせるようになって、組み手したいよ。そして、セントラルに行って、マスタング少将に挨拶して、おまえを見せびらかして〜…」
「見せびらかすって…」
僕は思わず苦笑を零した。
「俺に似て、すっげーカッコイイだろ、って自慢する」
「自慢するほどでもないけどさ〜。でも驚くだろうね」
そんな少し先の話をして、二人は過ごして。
僕の身体は、通常の人より何倍も早く動けるようになってる、ってウィンリィが言っていた。だって、早く、いろいろなことを感じたい。
これからどうしよう、何をしよう、なんて話している毎日。見ることのできなかった将来の夢というものを、僕たちは見始めた矢先だった。
中央司令部のロイ・マスタング少将に挨拶をするため、セントラルに来た。ホテルに一室を借りてすこし滞在する予定だった。
兄が、随分暗い顔をしてホテルに戻ってきた。
「どうしたの?兄さん」
「ん、いや。なんでもないよ」
先ほど誰かは知らないが、電話があり、兄だけが出掛けたたのだ。誰に会いにいったのかは聞かされていない。
その後から兄の様子はおかしい。
「なあ、アル」
「うん?」
「俺、セントラルに住むな」
「え…?」
それは、兄の決断だった。
僕を守るための決断。
兄は、赤いコートを脱いで、青い軍服に身を包むこととなる。