リクエスト

□【trust】
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それは、まだアメストリスに、魔法使いがいたころの話だった。錬金術と魔法の区別がない時代、一人の魔法使いがリゼンブール村周辺に現れたのだった。

◇◇◇◇

「アルフォンスお兄ちゃん、これ直して」
 アルフォンスの工房に飛び込んできたのは、近所に住む少女、ニーナだった。亜麻色の髪をおさげにしたニーナが突き出した両手には、犬の人形がある。
「やあ、ニーナ。アレキサンダーどうしたの?」
「あのね、アレキサンダーのお耳がちょっと取れちゃったの」
「わ、ホントだね。すぐ直すから、ちょっとまっててね」
 アルフォンスは、にっこり微笑むとニーナからその人形を受け取った。くるり、と背を向けて何をしてるんだろう、とニーナは思う。広い背中と手早く動く手をニーナは見つめていた。
 すぐに、「はい、どうぞ」と笑顔で見せたアルフォンスから、犬の人形を受け取ると、ニーナは、うわぁ!と目を輝かせた。
「アレキサンダーのお耳治った〜ありがとう!アルフォンスお兄ちゃん」
「どういたしまして」
「アルフォンスお兄ちゃんのお家にはたくさんのお人形さんいるね」
 ニーナがくるり、と部屋を見渡すと木彫りの人形や、布製の人形が並べられていた。そればかりではなく、木製の椅子や机などの家具もいくつもある。
「ねえ、アルフォンスお兄ちゃん。あの金色のお人形は誰のなの?」
 ニーナの指差した棚には、黄金の髪と瞳をもつ人形がちょこん、と座っていた。
「キレーなお姫様〜」
「え…」
 アルフォンスは、苦笑を零した。
「違うんだよ、あの子は、お姫様じゃなくて…――」
「あんな黒いお洋服じゃかわいそうだよ。あ!そうだ!」
 ニーナは、肩から提げた小さなポシェットから、ピンクで白のレースが豊富に使われたワンピースを取り出す。もちろん幼い子供が持つポシェットに入る大きさのワンピース…つまり人形サイズ。
「ニーナのお姫様のお洋服、作ってもらったんだけど、あの子のほうが似合うから、あげるよ」
 ずい、っと渡されてアルフォンスは戸惑いつつもその純粋な瞳に見せられ、「う、うん…」としぶしぶ棚から金の人形を取り出した。
 手早く人形が着ていた黒い服をぬがせ、すぐにそのピンクのワンピースを着せると、
「わ〜カワイイ〜〜!!」
 ニーナは、大喜びでその人形を抱きしめた。
「そ、そうだねぇ…」
 アルフォンスは、苦笑しかできなかった。
「今度、ネックレス作ってきてあげるね」
「え…あ、うん」
「じゃあ、ニーナ帰るね」
 ニーナは、その金の人形をアルフォンスに渡して、自分は犬のぬいぐるみを抱きしめて、ばいばい、と手をふってアルフォンスの工房を後にした。


 アルフォンスは、チラリ、とその手中の人形に視線を落とした。
「…似合うヨ…」
 その声に、ピクリと目を吊り上げたのは、手中の人形――…
「ぬわあ〜にが似合うだ――ッ!!」
 ゲシ。と飛び跳ねた拍子に顔を蹴られアルフォンスは、痛いよーと嘆くが、人形はフンっとそっぽをむく。
「せっかくニーナがお姫様みたいって褒めてくれたのに」
「…褒めてねぇ」
「でも、兄さん、似合うのはホント」
「〜〜〜〜!うるさい!いいから早くその服に変えさせろッ!!」
「折角似合うのに〜」
「フン」
 そっぽをむいた金の人形――名前は、エドワードという――は、両腕を組んでスカートだというのに、胡坐をかいて机の上にどす、っと座った。
仕方なくアルフォンスがいつもの服を渡すと、すぐさま、お姫様の服を脱ぎ捨てる。

「相変わらずだケロ〜鋼の」
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