リクエスト

□『uneasiness』
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「中佐、大佐知りませんか?」
 エイジが食堂で遅めの昼食にしていたアルフォンスに尋ねると、がっくりと首を落として、フォークを止めた。
「…執務室にいないんです…よね」
「ええ。中佐が憲兵駐屯所に行かれてすぐに見当たらないんです。外回りの担当だったんで、外回りに行ったんだと思ったんですが、まだ帰ってきません」
「大佐一人で外回りですか?」
「ええ…」
「どうせどこかでサボってるか、本屋の立ち読みで集中してるかでしょう。後で市街に行くので、見てきます」
「お願いします。今日中に必要な許可書が下りてこないって、下仕官が慌ててたものですから」
「…すみません」
 兄の代わりに謝るのに随分慣れてしまった、と思いながらアルフォンスは溜息をついた。

 食事後、書類をみて、ふと時計を見ると午後四時。
 そういえば、執務室に帰ってきた様子がない。覘いてみたが、やはり兄の姿がみあたらない。
「マーカー少佐。大佐知りませんか?」
「いえ、知りませんが」
 近くにいたガネットも知らない、と首を振っている。

 一体朝から何処へいったんだろう。
「すみません、ちょっと市街行ってきます」
「はい」
 一声かけて、アルフォンスは黒いコートを羽織った。

 念の為に、司令部内で放送をかけてみたが、やはり何の情報もなく、兄は居ないのだろう。
「まさか、何かあったのか…?」
 
 ぞくり、と嫌な悪寒が背筋を這う。
 いくらサボり好きな兄でも、朝から夕方まで遊ぶことはない。外回りから帰ってこないとなると、何かあったのかと思うほうが自然だ。

 とりあえず、行きつけの本屋に行くが、店の店主は今日は見ていないという。周辺を捜索するが、見当たらない。
 路地裏にはいるが野良猫が、道を横断するだけで、誰かがいる気配もない。
いつもの花屋の前も、図書館にも、公園にも姿がない。
 一時間ほど、闇雲に探してみたが、兄の姿はみつからなかったため、アルフォンスは一度公衆電話で司令部へ連絡する。

 ガネットが受話器をとった。
『いえ、それが見えないんですよ』
「…行き着けの本屋とか周辺をざっと探したんだけど見つからないんだ。援軍頼んでもいいかな」
『はい。僕の隊をそちらに向かわせます』
「ありがとう。あと、エイジ少佐に、司令部内の隅々を探すように言ってもらえるかな」
『わかりました』

 ガネット隊の到着はその十分後だった。ガネット隊が指示を聞き散開すると、エネルもついてきたようで、あとから車から降りてきた。
「よお、エドが居ないって」
「ええ。かれこれ八時間経っています」
「サボってるだけじゃねえの?」
 茶化した言い方だったが、アルフォンスがぎゅっと拳をにぎって、眉間に皺を寄せているのを見て、エネルは閉口した。
「…心配なんです」
 落とした視線は、中佐としての威厳はなく、ただ兄を心配する弟の表情だった。
「わかったって。ほら、探そうぜ」
 ばし、と背中を叩かれて、アルフォンスのうな垂れていた士気が高まるような気がした。
 

「報告します。0930にて大佐らしき人物の目撃情報がありました」
 下仕官の報告に、アルフォンスは眉を顰めた。
「9時半って、いまから何時間前だよ」
 毒づくエネル。アルフォンスは、すっと視線を下仕官に向ける。
「場所は」
 下仕官が報告した場所は、裏道に入ったところで、麻薬の売買がされているという噂のバー『full moon』だった。
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