toy ring

□toy ring 1
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アメストリス事務所の廊下には、何枚もポスターが張り出されている。そのポスターには金髪金目の俳優が、女優の手を握って、指輪をはめようとしているシーン。連想されるのは、プロポーズの一場面だろう。『最後のやくそく』高視聴率をキープする連続ドラマのポスターだった。

 その下を颯爽と走っていく一人の青年。金のテールを靡かせて、彼は突き当たりの部屋を目指していた。

「アル!でかい仕事ゲットできたぞ!」
 事務所のミーティングルームのドアをノックもなしに開いたエドワード。アルフォンスの視線だけがこちらに向くと思ったら、それは大間違いで――もうひとり、いた。
「あん、もう。マネージャーさんも気を使いなさいよね」
 人気急上昇の女優、まりあ。モデルからの転向でスタイルのいい女性だ。コロコロ変わる表情も、目が大きくチカラがあること。そして、女らしい優しさがある…って人気だ。ま、テレビにはウラの顔は見えないからなと、心で毒づいてみる。
「ごめん」
 エドワードは、すぐに扉を閉め、廊下に出ようとする。
「もういいわ。大方用事は済んでるもの。じゃあ、アル。今晩ね」
 ばさ、っと音がするんじゃないかと思うほどの睫を片目だけ閉じて、彼女は去っていった。
 しばらく呆然と彼女の背中を見て居ると
「兄さん、もう入ったら?」
 そう声をかけられて、エドワードはミーティングルームに入室した。
「…出かけるときは、気をつけろよ。まだスキャンダルはゴメンだからな」
「…うん。そうだね」
 
 重々しい空気を払拭しようと、エドワードは声を上げた。
「それで、映画の仕事が取れたんだ。ついに、おまえもスクリーンデビューだ!もちろん、主役だぞ!」
 嬉々と話すエドワードの表情を、僅かに冷たい視線でアルフォンスは見つめた。
「…その映画。マスタングさんに口聞いてもらったんでしょ?口か、カラダかは知らないけど」
「…!ど、どういう意味だよッ!」
「僕が知らないとでも思ってるの?貴方が取ってくる仕事の大半が、カラダで支払ってるんでしょ?」
「!ば、バカにすんなよ!俺がそんなに実力ないとでも思ってんのかよ!」
「…そうとは言ってないでしょう。僕を俳優としてここまで育ててくれたのは、紛れもなく貴方だよ」
「だったら、なんでそう言うこと言うんだよ!」
「…じゃあ、コレは何?」
 アルフォンスの長い指が、すっとエドワードの首筋に触れた。ワイシャツの隙間から僅かにみえる――キスマーク。
「…!」
 かっと赤面して、首筋を押さえるエドワードを見て、アルフォンスはきつく眉間に皺を寄せた。
「こ、これは…!」
 冷たい視線を感じて、エドワードはぎりりと唇をかみ締めた。
「貴方が無理をして仕事を取ってくる必要はないよ、兄さん――」
「な、んだよそれ…」
 アルフォンスは、急に立ち上がってミーティングルームを出ていってしまう。エドワードは追いかけることが出来ずに、アルフォンスの背中を見送っただけだった。

 エドワードはふと、ドアの隙間から廊下のポスターに視線を転じた。
 そこには、微笑んで女優に指輪を渡すアルフォンス。高視聴率をマークしているアルフォンス主役の連続ドラマだった。
 エドワードは、ぎゅっと右手で左指を握った――。


 その夜のことだった。
「え!?アルの…マネージャーを辞めろと…?」
 アメストリス事務所社長のヒューズが、濁し濁し言う言葉は、それだった。メガネの奥で、翡翠色の瞳が細められて笑みを作る。だけど、それは、エドワードにとっては悪魔に見えてしまう。
「いや、アルフォンスがそう言って来たんだが、確かにお前には、新人を育ててもらいたくて…なッ。おまえの実力は、知ってるし、アルフォンスももう、誰がついても売れるだろう。だからな……」
「…は…」
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