toy ring

□toy ring 3
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「アルフォンスさん、お願いします」
「はい」
 今日は、CM撮影の日だ。エステティックサロンのCMで、アルフォンスはガウンを脱いで上半身裸を披露する。
「まあ、いいわね」
 エドワードがふと隣をみると、エステティックサロンの女社長が、うっとりとアルフォンスをみていた。
 アルフォンスを気に入って、CMに使うといったのは、この社長だった。年齢は、五十をこえているだろうが、肌の艶はまだ三十代でも通るんじゃないかと思うほどで、さすがエステシャンだ、と感心する。
「恐れ入ります」
 ふとエドワードが声をかけると、女社長がふとエドワードを見た。
「アルフォンスのマネージャーエドワード・エルリックです」
「あら、始めまして。アルフォンスくんイイわね。もう、うちの看板になっていただいて、嬉しいわ」
「ありがとうございます」
 アルフォンスを褒められるのは、兄としてもとても嬉しい。
 兄がみたって、アルフォンスのカタチのイイ身体は自慢に値する。だけど、その身体が触れるのは、自分だけ――。そう思うと、エドワードは赤面してしまう。
「どうしたの?兄さん」
「え、あっ。いや」
 すぐ終わったのか、アルフォンスが赤面しているエドワードに声をかけ、不思議そうに首をかしげていた。
「終わったのか?」
「ううん。ちょっと直すって」
「え?」
 アルフォンスの背中に、メイクさんが何かを塗っている。コンシーラーだ。何かシミでもあったっけ?と思って、エドワードが覗き込むと。
「あ」
 思わず声をあげてしまって、その顔にアルフォンスはクスっと笑みを浮かべた。
「ネコでも飼ってるの?」
 メイクさんの声に、エドワードは真っ赤になった。
「ええ。懐かなかったネコが最近、すごく懐くようになって。そのツメがたまたま背中に当たったんですよ」
 しれっと言い放つアルフォンスに、エドワードはいてもたってもいられなくなり、踵を返した。
 エドワードは、昨日の情事を思い出す。確かに、昨日つらくて背中…ひっかいちゃったかも。
 うわ〜ごめん、アル…。
 壁に凭れて、赤面した顔を俯かせる。

 ヒトにキスマークつけるなっていっておいて、自分がつけてちゃ、なんの意味もないな、とさらに赤面してしまった。

 今日の夜、アルフォンスの仕事が終了次第、エドワードは『Fullmetal』というバーへ行くことになっている。
 自分が雑誌『toy』の専属モデルになって約一年。まだ、モデル『ed』は謎のまま、性別すら判断がつかないと世間では言っている。
今日は、『toy』の一周年記念の撮影の打ち合わせだった。いつもより、写真のページが増えるそうで、衣装を見たり、小物を見ることになっている。モデルだから与えられたものを着ればいい、と思っていたのだが、最近はエドワードも意見をいうこともある。だから、エンヴィが中心になって作っているにはかわりないが、スタッフの一員としてのポジションをエドワードは得ていた。
 
 熱った顔もそろそろ引いただろうか。そう思って顔を上げると、髪を括っているヘアゴムが何かにひっかかって、プツっと切れる音がした。
 ふわり、と金の髪が肩におちる。
「うわ、しまった」
 かわりのヘアゴムなんてあったけ?なんて思っていると、突然ムリに顎を上げられた。
「え」
 あまりにも急だったので、顔を上げたままそのむりに上げさせた人物を見上げた。
「おまえが、『ed』だったのか?」
「――!」
 男だ。長身で、スタイルがよく黒い短髪だ。
「へえ」
 男は、にやり、とサングラス越しに笑った。
「俺の名前はグリード。おまえと同じ職種」
「俺は、アルフォンスのマネージャーだ。『ed』なわけないだろ」
 男は、くくっと笑いを漏らして、じゃあな、と行ってしまった。
「…なんだ、アイツは…」
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