toy ring

□toy ring 4
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「アルフォンス〜!」
 エドワードは、来たな、と身構える。
今話題のグラビアアイドルのルビィだ。漆黒の髪や目は艶やかにひかり、豊満な胸を摺り寄せてアルフォンスの腕に絡みつくのだ。
まさか、大道具を置いてるこの部屋に来るとはおもわず、エドワードは憮然とその女を見た。
「やあ、ルビィ。今日は撮影?」
「ええ。バラエティのね。アルフォンスは?」
「僕は、ドラマだよ」
「そう。今日、夜空いてる?ご飯食べにいかない?」
 アルフォンスが、ちらりとエドワードの顔をみたが、エドワードはふいっと顔をそらす。
「うーん…でも」
「いいじゃない。じゃあ、七時に、『alchemist』に来て!」
「ちょ、ルビィ。アルは行くなんていってないだろ」
「何よ、マネージャーさん!貴方には関係ないでしょう?」
 ずいっと睨めつけるようにして、ルビィはエドワードの前に立つ。
「関係あるから言ってるんだろ!アルは…俺の…」
「なによ」
「ま、マネージャーとして!スキャンダルはまずいから!」
「何よ!うるさいわね。アルの保護者面しちゃって!」
 ルビィがとん、っとエドワードの肩を押すと、首からするりとチェーンがすべりおちた。それと同時に指輪がふたつ落ちる。一つ、プラチナの指輪はエドワードの足元へ、おもちゃの指輪はルビィの足元へ。
「何、コレ」
 エドワードがプラチナの指輪を拾っているとき、ルビィがおもちゃの指輪を拾いあげた。
「あ、ちょっ!返せっ!」
「何よ、おもちゃじゃない」
 
 はっと息が止まったように感じた。

 ルビィが、おもちゃの指輪を、窓の外に投げたからだ。
「っ!」
「うそ」
 アルフォンスも流石に驚いて、目を丸くする。エドワードはその窓に駆け寄り、覗くが中庭の芝生にまぎれてどこにあるかわからない。
「っ」
 咄嗟に踵を返して、中庭へ走り出そうとする兄の手を、アルフォンスはつかんだ。
「兄さん、次の局に行かないと!時間がないよ」
「でも!ちょっとだけ…!探す!」
「兄さん!だって、もう時間がない!」
「っ!だって、だって…!」

 あの指輪は、オマエが、おまえがくれた初めての…プレゼントなのに!

 ルビィは、ふんと顔をそらして、歩いていってしまった。
 
 今にも泣き出しそうな表情で、アルフォンスに手を引かれて、エドワードはそのテレビ局を去っていくことになった。


 次の収録の間も、指輪がずっと気にかかっているエドワードは、上の空で半日を過ごす。収録が終わった途端、エドワードはアルフォンスに言う。
「俺、さっきの局に戻るから!先に帰ってて」
「え、ちょっと兄さん!ぼく、ルビィと約束が…」
「あ…。そうだったな。気をつけて」
「なんて、僕がそんなヒドイことすると思う?僕もいくよ」
 アルフォンスが、ふっと笑ってくれてエドワードは嬉しくて、微笑んだ。

 二人が先ほどのテレビ局にもどって、中庭を探す。探す、といっても、小さなちいさな指輪だ。ふたりははいつくばって、草をかけ分けて探すしかない。
 夜の帳も下りてきて、アルフォンスがテレビ局から借りてきた懐中電灯の明かりだけが頼りだ。
「ない…」
「ないね」
 半ば諦めているアルフォンスが、立ち上がって、腰をとんとんと叩く。
「兄さん、もう諦めようよ」
「馬鹿なこというな!」
「だって、プラチナの指輪を大切にしてくれれば、僕はそれで十分だよ?」
 エドワードは泣きそうな顔で、アルフォンスを見上げた。手はぎゅっと芝生を握りしめている。
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