toy ring
□toy ring 5
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『セイレーンの歌』
「ふわあああ…」
ロイ・マスタングは、堪えることなく、その場であくびを披露した。
「プロデューサー…」
呆れてハボックが言うが、彼は構うことなく、頭をかいた。
「このオーディションに何の意味があるんだか…」
「でも、言ってたじゃないですか。『ed』がオトせないからって…」
「監督がピチピチのギャルをご指名でな…」
「はは…ピチピチギャルですか」
とある一室で、二人がそうはなしていると、監督のブラッドレイが入室してきた。
「お疲れ様です」
「どうだね?いい娘はいたかね?」
「いや〜いないっスね」
「…ハボック」
「はい?」
「私はすこし出る。後をたのむぞ」
「えッ!ちょ、ちょちょっと!」
置いていかれたハボックは、仕方なくオーディションを再開した。
☆
「よお、ヒューズ」
「やっぱりおまえか。受付の女の子ナンパしてる男がいるって、連絡もらってきてみりゃ…」
ここは、アメストリスプロダクション。アメストリス事務所から引越しして改名したばかりだ。
「遅くなったが、祝いだ」
ロイが渡した引越し祝いは、高級ワインらしい。
「おう、これで祝杯――といいたいところだが、俺は忙しいんでな。用があるならさっさと…」
「おまえに用があるんじゃないぞ。ここのアルフォンスのマネージャーに用事があってな」
「…おまえ、まさか」
ヒューズの翡翠色の瞳が、メガネの奥で光った。ロイはソレをみとめて、ふっと口角を吊り上げたのだった。
二人は場所を社長室に移動させた。
皮のソファに身を沈めるなり、ロイは話を始めた。
「おまえは知ってるんだろ?モデル『ed』の正体を」
「は、まさか」
「いまさら、知らん顔か。おまえがなぜ、そんな『商品』を抱えていながら、在庫にしておくのだ?勿体無い」
「アイツは、表立ってやりたくないといっているからな」
「はは、やはりそうなのか」
「――。まあ、あいつは雑誌『toy』以外やらねえって言ってるし、マネージャー業も申し分ないからな、このままでいいとおもってるが」
「取材が入るだろう?アルフォンスが共演してるんだ」
「ああ。もう、山ほどな。ウチは知らない、の一点張りさ。アルフォンスにもけっこう聞かれたらしいな。あと、ウロボロスプロの、なんていったっけ、アイツ――」
「ああ。グリードか」
「おう、そいつにもかなり取材が入ったらしいが、あいつも何も喋らないんで、ますます加熱の一途をたどってる」
「だが、俺のようにうすうす感じているものもいるぞ」
「ああ。そこだよ」
「そろそろ、明かしてもいいんじゃないのか」
「…何を狙ってる?」
そこで、ロイは、ヒューズにある紙の束をテーブルに置いた。
「…『セイレーンの歌・草稿』…映画か?」
「ああ。このセイレーン役に抜擢したい」
「…だが、あいつは男だぞ」
「ああ、セイレーンという少女役だが、喋れない役だ。丁度、髪も長いし体格も小さい。衣装で誤魔化せるだろう」
「はは、アイツが聞いたらキレるとこだな」
「ま、そこんとこは、オマエの腕にかかってるってトコだな」
「おまえ…また俺にそんなことをやらせるのか…」
「他の『商品』も使ってやるからよ」
「エドは商品じゃねえぞ」
「…ガッポリ掴ませてやるよ」
ロイは、人差し指を親指でОの字を作った。
「…今度来るときは、エリシアへのプレゼントももってこい」
「はは。くまのぬいぐるみをもってこよう」
ロイは、ニっと笑って立ち上がった。
「邪魔したな」
「…もう来るな」
扉が閉まると、ヒューズは、大きくため息をついた。
「…マネージャー辞める…かな?あいつ…」
まさか、と自分で否定してみた。