toy ring

□toy ring 6
1ページ/12ページ

『Ich liebe dich』

 空港で迎えの車を待つ間、なんとなく目をやるところすべてに、同じ顔の人間を見かける。
ポスターやテレビCM、ドラマ。

 男は、すっとサングラスを取ると、向こうからかけてくる人間を見つけた。
「アルフォンス!」
「エドワードさん!」
 男、アルフォンス・ハイデリヒは駆けてくるエドワードを抱きとめるように両手で包み込んだ。
「お久しぶりです!エドワードさんっ!」
「わっぷ!おまえ相変わらずだな」
「貴方も全然変わってませんね」
「あ、おまえ今、身長見た!!」
「え、見てませんよ〜」
 二人でじゃれるような会話を楽しんでいると、「こんにちは」という声が聞こえ、ハイデリヒは顔をあげた。
 声をかけた男は、ハイデリヒと同じくらいの身長で、目を覆うようにカーブしたレンズで、色の薄いサングラスをしていた。
「初めまして。アルフォンス・エルリックです」
「あ!貴方が噂の弟さん!?」
 ハイデリヒは、にっこり微笑んで、握手を求めた。
「初めまして。アルフォンス・ハイデリヒです」
「前にも言ったよな?俺のステイ先のおまえそっくりな人。向こうでモデルしてるんだ。昔は売れてなかったけど、最近売れてるらしいじゃん」
「ひどいな〜売れてなかったなんて。ちょっと病気が悪化してただけだよ」
「今は大丈夫なのか」
「うん、今はね」
 なんとなく疎外感を感じるアルフォンス。まあ、積もる話もあるだろうし、と思って二人の様子を傍観していた。
「じゃあ、行こうぜ。アル!アルフォンス!」
 
 久しぶりに会えたドイツからの友人に、エドワードは数日前から喜んでいた。それに、複雑な思いをしていたのは、アルフォンスだ。
それに、さっきの抱擁も、過剰じゃないのか?そう思うが、兄がトモダチに会えてうれしそうなので、文句の一つも言えない。

 それに、アルフォンスがもう一つ面白くないのは、自分たちのマンションに泊まるということだった。
 一応は反対したのだ。自分たちの仕事は定時に帰れるような仕事ではないし、夜遅くまで家を空けることが多い。だから、お客が退屈するのでは、と。だが、いつの間にか兄は三日休暇をとっていて、最終日は『ed』としての仕事もあるようだが、まるっと二日はハイデリヒの相手をするつもりだったのだ。ちゃっかり、その間のスケジュールも細かくシェスカに頼み込んでいた。


 タクシーを利用して帰宅する間、ハイデリヒとエドワードはひたすら昔の話を続ける。あの時は、こうだった。ああだった。そんなアルフォンスには分からない話をされて、面白いはずがない。だが、滅多に合えない友達にアルフォンスが邪魔をすれば兄の怒りを買うことになる。だから、アルフォンスは我慢をすることに決めていた。

「ステキな部屋ですね」
「ああ、アルの見立て。こういうことスキだから、アルは。まあ、座れよ」
 三人が、マンションに入り、エドワードはソファに座るように促す。
「兄さん、ボクがお茶煎れるよ」
「あ、悪いな」
 そういうと、エドワードはひたすらハイデリヒと楽しげに話し、そんな様子をアルフォンスはキッチンから見る。

 兄が、自分に似た男と話し、笑う。

 醜い嫉妬心が、アルフォンスの胸を襲う。
 たまにドイツ語を使ったりするので、さらにアルフォンスには理解できない。
「はい、どうぞ」
 二組のカップをハイデリヒとエドワードに用意して、アルフォンスは立ち上がった。
「あれ、アルは?」
「ちょっと出かけるね」
「どこ行くんだよ」
「う〜ん、まだ決めてないけど…。適当に本屋とか」
「キャップ被っていけよ?気をつけてな」
「兄さん。ボク、子供じゃないんだからさ」
「だって、オレはオマエを管理する立場だし…」
 管理。
その言葉に、アルフォンスは眉を顰めた。
「それは、保護者として?マネージャーとして?」
「っ、両方だろ!」
 その言葉に、アルフォンスは微かに笑ったまま、玄関を出ていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ