toy ring
□toy ring 10
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最近、アルフォンスがおかしい。
いや、おかしいというより、仕事で行き詰まってるようで、かえってくるとすぐに仕事部屋にこもってしまう。
仕事で行き詰まってるといっても、俳優業ではなく、もう一足のわらじの方。つまり、衣装デザインのほうだ。
プロデューサーのロイ・マスタングからの依頼らしいのだが、映画やドラマに使うものではないらしい。しかも、誰が着るかも、オレはしらない。
新しく購入したこのマンションに引っ越して一ヶ月。衣装部屋とアルフォンスの仕事部屋が新たにできて、広くてデザインもいい部屋なんだけど、二人で暮らすには広すぎで、オレは好きになれない。結局この居心地いいアイボリーのソファに座ってるだけだ。
まあ、以前は服のデザインを考えるのも、自宅ではなくスタッフルームに通いつめていたので、近くにいられるといえば、近くにいられるんだけど。
ふいに、アルフォンスの仕事部屋の扉が開き、部屋の主がのそ、っと出てきた。
おいおい…、やつれてないか?
この顔が、昼は女性に黄色い歓声を浴びていたとは、思えない。
「コーヒー飲むか?」
「いい…それより、兄さん」
「ん?」
アルフォンスの両手が、がし、っと俺の両肩にのせられた。
「僕の妖精になってください!!」
「はあっ!?」
…ついに弟が壊れたっ!?
【妖精】
「お疲れ様でした〜」
アルフォンスの撮影終了後、すぐに彼の携帯電話がなった。
「ええ。説得中ですって言っておいてください。…あっちのほうですか?それも、まだ…わかってます。…ええ。はい」
「どうした?」
「マスタングさんの催促の電話。もう、わかってるんだけどさ〜。ねえ、昨日言ったこと…」
「まだ言ってるのか、おまえは」
すぱっと言葉を遮られ、アルフォンスは口を尖らせた。
「そんな仕事やらねぇ」
「でも、適任だと思うんだよ〜ね〜お願い、兄さん」
「そんな可愛くいってもだめ。だいたい、そんな時間取れない」
「そこは、社長にお願いしてさ〜」
エドワードは、溜息をついて、あのなぁ、と言葉を続けようとしたが、言葉を止めた。
「…リザさん使えばいいじゃん」
だって、リザさんとマスタングは婚約してるんだろ?だったら…
「それが、イメージじゃないらしいんだ。もちろん、そのアーティスト側が言ってることで…」
「アーティスト!?ちょっと、おまえ何の話だった?グラビアじゃないのか?」
「あれ、言ってなかったっけ?プロモーションビデオと、CDジャケット撮影だよ」
「〜〜〜!絶対やらねぇ!」
エドワードは、金のテールを翻してスタスタとテレビ局の廊下を闊歩していく。残されたアルフォンスは、はあ、と溜息をついた。
「な〜にが、妖精だ!そんな恥ずかしいことできるかっつーのっ!」
マスタングと食事をしつつ打ち合わせがあるといったアルフォンスより、先に帰宅したエドワードは、ぶつぶつ独り言をはきながら、自分のジャケットをかけるためにクローゼットをあけた。
「……なんで、こんなファンシーな衣装が俺のクローゼットに…」
オーガンジーのような薄手の布でできたワンピースが、淡いピンク、淡いイエロー、淡いブルーと三種類。その横には、光沢のある布でできたワンピースが数着。
「絶対アルフォンスの仕業だ!」
エドワードいわく、“ファンシーな衣装”をはぐるようにその場から出して、自分のジャケットをかける。
「……」
そして、ちらり、と無残に床に投げ捨てられた衣装を見た。
アルフォンスが作ったのだろう。
そう思うと、やっぱりこの衣装も大切に思える。
エドワードは仕方なく、その衣装を拾い上げて、皺にならないようにハンガーにかけるのだった。