toy ring

□toy ring 11
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アルフォンスと、CMプロデューサーのロイ、そしてリザの画策により、『ed』としてCMすることになったエドワード。
 衣装などの打ち合わせもおわり、いつものスタッフで撮影に臨んだのだが、メイクや衣装を着て、一歩スタジオに入るなり、ざわりと空気が変わった。
「…え、何」
 いつものスタッフというが、最低人数で行うため、十人ほどだ。エドワードはふと顔を上げるが、みんな目を丸くしている、といった状態だった。
「化けたな」
 褒め言葉なのか、それとも嫌味なのか。ロイの言葉に、エドワードはむす、と口を尖らす。
「うるせぇ。どうせ、ラストのゲイジュツだよ」
「それはそうだろう」
 メイク技術ってすげェと一番思っているのは、本人だからだ。化粧ひとつで、つり気味の目も柔らかい目になっている。

『al』のワンピースはシンプルで光沢のあるピンク色だ。しかし、縫製に凝ってあるらしくて、アルフォンスも、ロゼもこのごろ徹夜続きだった。そのつらそうな姿を見ているエドワードとしては、なんとしても着こなさなくては、という思いもあり、今ここにたっていた。
 小道具は大輪の花束と、そしてCMする新作のチョコレート菓子。といっても、半生タイプのケーキのようなお菓子だ。
 
 チョコレート菓子を食べるシーンから撮ることになったのだが。
「カーット!!」
 すでに何回目のカットだろう。監督でもあるロイがエドワードにこうしろ、ああしろと細かく指示をするのだが、イマイチイメージがつかめない。
「ぜんぜん、商品が目だってないっ!やりなおし!」
 カメラワークはどうなんだよ、と言いたいところだったが、エドワードは何も言わずにひたすらチョコレート菓子を食べ続ける。
「視線!」
 カメラのほうを向くように指示があったんだ、と思い出し、もう一度やり直しがかかった。
「っ〜〜〜!」
 ちくしょー!!と叫びたいところだが、エドワードは大人しい。そして、ひたすらチョコレート菓子を食べる。
 唇を半開きにして、ぱく、っと口にいれてみるが、
「子供っぽすぎる!」
 と叱られるし、
 同じように半開きにして、視線を代えれば、
「おまえは娼婦か!」
 と叱られる。
 
 スタッフもうんざりとしたような空気が流れ始めた。
「グラビアと違うのは、お前の動きがすべて映されることだ。一カットにかけるんじゃなく、仕草全部で表現しろ」

 わかってる、わかってるんだよ!
 イライラが募ってきて、エドワードも冷静を装うが、心の中は煮えくり返っている。
 もう、いくつチョコレート菓子のパッケージを開けているだろう。
 ちらり、と見ると六個入りの箱が、もう、四つ開けられている。
「うっ」
 さすがにキツい。
 一口口に入れた瞬間、エドワードはトイレにダッシュしていた…。

「う…チクショー…」
 胸焼けがして、もやもやが取れない。
 それは、決してお菓子だけの所為ではなく、出来ないイライラもある。
 服を見せるんじゃなく、自分も出張ってはいけない。メインは商品。シャンプーのCMとは違って、商品を『美味い』と思わせなくてはいけない。
この違いに、エドワードは戸惑っていた。
「兄さん」
 心配したアルフォンスが駆けつけてくれて、エドワードは顔を上げた。
「アル…」
「大丈夫?」
 背中をさすってくれるアルフォンスのぬくもりに、エドワードは思わず目にこみ上げるものがあって、あわてて上を向いた。
 化粧が崩れる。
「兄さん、衣装気にしすぎてるよ」
「――っ!おまえまでダメ出しかよ!」
「違うよ、そういう意味じゃない」
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