toy ring

□toy ring 11
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【家族の一部】


「あなた、顔に出さないし、言わないけど、今まで苦労してきてるわね」
 初老の女性にそういわれて、アルフォンスは微かに口角を吊り上げた。
「でも、僕にはそれを支える人がいたので、苦労だとは思いませんでした。それに、僕より、その人のほうが苦労してきてると思います」
 女性は、目尻に皺を寄せて笑った。
「でもね、貴方の近くにいる人とは別れたほうがいい。あなたの本当の幸せは、これから訪れるわ。それに、貴方の幸せは、家庭をもつこと。家庭に縁のなかった貴方だもの」
「…!」
 アルフォンスは大きく目を見開いた。番組上、反論することもできず、曖昧に答える。スタジオの隅に控える兄の顔が見たいが、今は見てはいけない。あくまで、視線は、初老の女性。某有名占い師だ。
「…そう…ですか」
 テレビ上、悲観するわけでもなく、苦笑を貼り付けてアルフォンスは占い師のアドバイスを聞くフリをしていた。


 ライトがあたるスタジオを、逸らすことなく見つめるものは、一人や二人じゃない。だが、そこのタレントを一番熱心に見つめているのは、只一人、兄でありマネージャーのエドワードだ。
「……」
 
 収録が終了すると、エドワードはアルフォンスの控え室に向かい、すぐにアルフォンスがやってきた。
「兄さん」
「ん?」
 エドワードは、いつも通りにふりむいて、アルフォンスは少しだけ目を丸くする。
「どうしたんだよ。着替えて、次行くぞ?」
「え…あ。うん」
 さっき言われたことを気にしているんじゃないか、とアルフォンスは思ったのだが、平気そうな表情だ。
「…どうした?」
「ううん、なんでもない。着替えるね」

 エドワードの内心は、穏やかではない。よく当たるといわれている大物占い師の言うことを、まともに信じているわけではないし、占いは占いだと思う。だけど、どうしても心の隅に引っかかってしまうのは、仕方がないのかもしれない。


「おい、聞いてるのか?エド」
 はっと気がついたように、エドワードは顔をあげた。今は、髪をキレイに結い上げてもらって、顔にも化粧が施されていて、さらに女性向けのTシャツを着、そしてさらに短いパンツを身につけていた。
そう、いまはマネージャーのエドワードではなく、モデル『ed』としての撮影中なのだ。
「う、いや、ゴメン…聞いてなかった」
 はあ、っと重々しいエンヴィーの溜息が聞こえた。
「休憩だ、休憩」
 エドワードはスタジオの隅の椅子に座って、ペットボトルの水を口に入れた。
「…今日、アルは撮影に来なかったのね」
 ふと、メイク担当のラストがそういうので、エドワードは顔をあげた。
「ああ。今日は、服のデザインが上がらないっていってた」
「そう。だから調子悪いの?」
「はは、そんなんじゃない。…オレさあ、この雑誌一本で、生計立てられないよなぁ?」
「え?」
「あ、いや、なんでもない…」
 エドワードは、誤魔化すように苦笑した。
「お、やっと『ed』として生きてく気になったのか?だったらいろいろ仕事もらえるように紹介するぜ?」
 ふいにエンヴィーに声をかけられて、エドワードは一瞬考える。
「…いや、まだ考えてないけど、いずれ…そうなるかも、しれないなぁ…」
 意味ありげな言葉に、エンヴィーとラストは顔を見合わせた。

 撮影終了後、エドワードが帰宅すると、まだアルフォンスは帰ってきていなくて、おそらくスタッフルームと呼んで借りているマンションにいるのだろう。そこで、スタッフのロゼたちと打ち合わせをしたりしている。
 なんとなく食事を摂るのもめんどくさくなって、エドワードはどさっとソファに座った。
 首に下げている、二つの指輪を、手にとって、一つのプラチナのほうを左の薬指に、もうひとつは、赤いルビーを模ったおもちゃの指輪を小指にはめた。
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