よみもの アルエド(未来軍部)2

□あめの日の次の日もまたアメ。
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 今朝から咳がひどいな、と思ったんだ。でも、俺が心配しても
「兄さんと違って薬は飲んでるから、大丈夫」
 そういって笑ったから、今日は早く返して、寝かせようって思ったんだけど。

 イライライライラ……
東方司令部司令官、エドワード・エルリックは、久々にみた中央からのお客さん、基、カルフ大将のお小言にイライラしっぱなしだった。
 
今日来るなんて聞いてない、と思ったが来てしまったものを追い返すわけにもいかず――いや、マスタング少将だったら追い返しているだろうが――素直にお小言を聞いているのだった。だが、かわいそうなことに、副官のアルフォンスまで同席させられ、しかも立ちっぱなしで延々と三時間。
何のお小言か聞いても、右から左の耳へと流れるだけで、頭にちっとも残らない。つまりは、それ程度の話なのだ。

体調が万全ならともかく、今日のアルフォンスは昨日の土砂降りの雨のなかの作業で風邪をひいたらしく、今朝から咳をしている。

エドワードはちらり、とアルフォンスの顔を横から見上げた。
 顔色がよくない。
 熱もあるかもしれない。
 エドワードの頭はそれしかない。
「…ということでいいのかね?エルリック大佐」
「え、あ、はい」
 大将の左右に撫で付けて尖った黒い髭がピクンとはねたようにみえた。
「聞いていたかね!?エルリック大佐!」
「あ…はあ…」
「だいたい君は…!」
 うわ、また始まった!しまった、と思いつつもおそるおそるエドワードは声をかけた。
「あのう、カルフ大将。エルリック中佐を退席させてもよろしいでしょうか」
「どうかしたのかね」
「昨日の雨にあたって、風邪を引いたようですので」
 大将の目が、ぎろり、とアルフォンスに動いた。
「いえ、大丈夫です」
 と、平然と言うので、エドワードはバカか、おまえは!その顔のどこが平気なんだ!せっかく兄ちゃんが助けてやろうとしたのに!と言葉にはしないが、表情で怒りをあらわしてみる。
「大佐!君は実の弟だからって、甘やかしてはいないのか!きみたちは若くして国家錬金術師となったために、軍人としての心得がなってない!だいたい、こんな若僧に東方司令部を任せるとは、マスタング少将も間のぬけたことをしてくれる」
 誰に怒っているのかわからないが、大将はロイとも仲が悪いらしい。
「お言葉ですが」
 アルフォンスの声色が、ぐっと低くなり、刺すような眼光を見せた。
「大佐は東方の方にちゃんと受け入れられてます。感謝の手紙や言葉もたくさん聞こえてきます。それをご存知ですか?若いからって何もしていないわけじゃない」
「民衆の意見なぞ、聞いている暇はないのだよ、軍人は!」
 今度カチンときたのはエドワードだった。だが、大将がいったことを否定すると、またうるさくなると考えて、アルフォンスのことについてだけ意見を述べる。
「中佐は士官学校を優秀なる成績で卒業しております。そこでは、軍人の心得も重々教えられていたはずですが?」
「軍人は、下仕官から始まるものだよ、エルリック兄弟!下積みの時代があってこそ、今の地位が誇れるものなのだ」
 いや、別に誇るもんじゃね〜し。とエドワードは、頭のかたい将軍たちに嫌気がさす。もっとも、東方司令部の将軍とマスタング少将は、理解あると思っているが。
 
そして、ここでこれ以上反発したら、さらにお小言が長くなる。エドワードは鼻でため息をこぼして、黙ることにした。
「まあ、今日はこれで良いだろう。ああ、そうだ。今晩、イーストホテルので、パーティがあるのだが、不穏な動きがある。要人警護の任についてくれ。だが、軍服ではなく、仮装をしてもらう」
「…は?」
「連絡がいってなかったかね?」
「い、いいえ」
「そうか。マスタング少将に連絡を入れるよう頼んでおいたのだが…。まあ、いいだろう。エルリック大佐には、用意した仮想の服を着て、とある要人を守るようにしてもらい、中佐には私の娘の警護を。部下数名で、入り口とパーティ会場を見張ってもらおう。全員、軍服は禁止だ」
「え、用意した服って、正装じゃだめなんですか?」
「ああ、君には女性としてきてもらうようにしたのだよ。要人が、男性では嫌だとダダをこねるのでね」
「はっ?でも、つくろったって俺は男ですけど」
「いいのだよ、見た目の問題だからな。要人の名前は、ガン・トリック先生だ。それと、中佐は私の娘をエスコートするように守ってもらいたい。では、七時半にはホテルに来たまえ」
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