よみもの アルエド(未来軍部)2
□悲しみと喜びの狭間で(中編)
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中編
術後の経過も順調で、アルフォンスは動くことができるようになった。
だけど、ただひとつだけ、記憶というものが抜け落ちていた。医者には、一時的なものだと思うが、記憶がもどるという保障はできない、と告げられた。それは一時的とは言わないだろ、と心でつぶやくエドワードだ。
記憶、といっても生活に支障はない。食べ方や一般的マナーを忘れたわけじゃない。
仕事や同僚。
そして兄エドワードと、過去。
それらがすべて、すっぽりと抜け落ちているのだった。
その事実に、エドワードは心臓をわしづかみにされて、ギリギリと締め上げられたようは衝撃を受けた。いや、今でもそうだ。
ツライ過去を分け合って生きてきた、弟に、
愛し愛されていると唯一確信していた相手に、
「だれですか」といわれたときの、衝撃。
記憶…か。
そういえば、鎧のころもそれで悩んでいたな、アイツ…。
ああ、そうか。
これは、喜ぶべき状況なのかもしれない。
過去を忘れたなら、
あの「罪」も、アルフォンスから消えたのなら。
そして、
今のこの『罪』でさえも…。
アルフォンスが生きている。それだけでいいのではないだろうか?彼が彼であることには代わりはない。これからの記憶を、植えていけばいい。ただ、自分さえ納得すれば、受け入れることができるのでは?
家族、として。
「アル」
エドワードがそう呼ぶと、アルフォンスは振り向くようになった。最初は、自分の名前さえわかっていなかった。
「退院することになるけど、家分からないだろうから、一緒にいこう」
エドワードがそういうと、アルフォンスは、ためらいがちに「ええ…」と頷いた。
「なんだ?嫌なのか?家に帰ること」
「いえ…そういうわけでは。ただ、貴方にご迷惑かな、と」
エドワードは今にも涙がでそうだ。泣いたって変わらない状況だけど。
ぐっと堪えて、エドワードは苦笑した。
「俺は、おまえの兄だって言っただろ?迷惑だなんて考えていないよ」
「すみません」
「俺に…そんな言葉使うな」
「…すみません」
きつく寄せられた皺を、アルフォンスは見た。
この人は、誰?
本当の兄だという。自分たちには両親がいなくて、二人で生きてきたって。そう彼はいった。
でも、本当にそれだけ?
ズキ、と頭痛が激しくなる。
いつも、この人のことを考えると、頭痛が激しくなる。
「アル?痛むのか?」
すぐに心配して駆け寄ってくる、この人は、本当に『兄さん』なのだろうか?この過敏な反応は、兄弟としてはやや強すぎるのでは?そして、この自分の感情の空白は?
「大丈夫です。心配しないで」
やはり、彼の眉根には皺がよっている。ずっと、だ。もうずーっと。せっかく、きれいな顔をしているんだから、もっと笑えばいいのに。
…?
僕は、彼に笑ってほしいのだろうか。
「でも、アル…」
「平気です。貴方の家に連れて行ってください」
いくら、笑顔で言われても、そんな一言で、エドワードの心は痛む。貴方の家、それは他人が言う言葉じゃないのか?アルフォンス…。
それは、アルフォンスがエドワードを家族だと受け入れていない証拠の一つのような気がした。