よみもの アルエド(未来軍部)2

□悲しみと喜びの狭間で(後編)
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後編

「顔色が悪いですよ」
 東方司令部の食堂で、エドワードは声をかけられて、顔を上げる。
「エイジ少佐」
 エイジも、エドワードの向かいの席についた。
「中佐は、もう復帰されないんでしょうか」
 記憶を失って、二週間が経とうとしていた。アルフォンスが司令部に来なくなって、二週間が経つのだ。
「さあ…どうかな。違う仕事を見つけようかと思ってる」
「恩を返したいという、私の気持ちはどうしたらいいのでしょう」
「アルフォンスはそんなつもりで助けたんじゃない」
「ですが」
「…俺はアイツを軍人にはしない」
「っ!何故です!?」
「あいつの幸せを俺は願うから」
「それが本当に、彼の幸せなんですか!?」
「…おまえは、アルフォンスでもアルフォンスの兄でもないだろ」
 エドワードは自嘲するかのように笑った。
「っ!」
「だから、お前の中から、国家錬金術師アルフォンス・エルリックとアルフォンス・エルリック中佐を消せ」
「…できません」
「…」
「命令でも、僕は従いません!」
 エイジは勢いよく立ち上がって、踵をかえそうとした彼の腕を、エドワードは取った。
「肩書きがなくても、アルはアルフォンス・エルリックだ、少佐」

 その言葉の意味を理解したエイジは、ふたたびストンと席に座る。
「では、僕も彼に思いを告げても?」
 エドワードはふ、と笑った。
「いまならチャンスだぜ」
「!何故…」
「俺はもう、アイツを縛らないという決断をした。だから、アイツの人生は、アイツのもんだ。アイツが選ぶんだったら、俺は何も言わないよ」
 エイジは、唇を噛んだ。
 悔しい、というのが本音かもしれない。
 アルフォンスをこれほどまで愛せるのは、ここにいる彼ただ一人だ。
 …自分じゃない。

「貴方が…彼を愛さなかったら、誰が彼を愛するんですか?」
 声が震えてしまう。
「アイツは昔から、人に好かれる」
 そんな慈しむ目で。
「誰にでも愛される、優しい人間なんだ、アルフォンスは」
 そんな、優しい声で。
「大佐は、素直じゃないけど、嘘はつかない人だとおもっていました」
 ただそれだけ言って、エイジは立ち上がって、その場を離れた。
悔しい、悔しい、悔しい! 
誰よりも愛していながら、あんなことが言える。
 それは、愛されている自信があるからだ。
 …そう。アルフォンスは、エドワードのことしか見ていない。それは自分だから分かる。自分も、彼が好きだから。

「はは、ひでえ。大佐にむかって素直じゃない、だなんて」
 あいつ、結構分かってるんだな。そりゃそうか。あれだけアルのこと見ていたんだから。
 はあ、と大きなため息をついて冷え切ったスープに口をつけた。
「うまくないな…」

「それは作った人に失礼なんじゃないですか」
 背後から降ってきた言葉に、エドワードは目を見ひらいた。
 なぜ、ここに!?
「っ、アル!」
「はい」
 にこ、とわらってアルフォンスがそこに立っていた。
「ど、どうして!」
「軍服じゃないから、目立っているのかな?さっきから敬礼されるんだけど」
「バカ!当たり前だ!おまえは、俺の副官で、中佐の地位をもってる」
「中佐!?はは、そりゃスゴイ」
 他人事のようにアルフォンスは笑っていた。
「で、何の用事だ?」
「用事、というほどでもないんだけどね。会いたかったから」
 その言葉に面食らったエドワードは、そのまま呆然としていた。

 このまま私服でうろうろされたら、部下に何を思われるかわからない。エドワードはアルフォンスをつれて自分の執務室に連れて行った。
「!中佐!」
 執務室へ入るのに、いつも大部屋を通る。そこにいたガネットとローズが、驚きで目を見開いていた。
「もう大丈夫なんですか?」
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