よみもの アルエド(未来軍部)2

□エルリック大佐誘拐事件(後編)
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後編

「兄さん…」
 アルフォンスは一人になって、ようやくその言葉をつぶやいた。顔では冷静を装っているが、内心、心臓を鷲づかみにされているようだ。あるいは、首をしめられて、ジリジリと死を待つような苦しみ。
 これが、少将絡みなら、いい加減にしてほしいと思う反面、自分たちがそういう立場にいるということをまじまじと感じさせられる。 
少将の傍は危ない。はっきりいって、少将は確実に、大総統への階段をあがっていることだろう。その実力も重々承知だ。そして、ロイ自身にも上に昇りつめたら、おまえらを傍にこさせる、とまで言われている。つまりは、腹心としてこき使うということだ。

大総統の椅子取りゲームに興味はないが、巻き込まれているのは致し方がない。やはり、ロイを信頼しているから。
だからといって。
兄を盾にするようなやつらを許しておけるか。
アルフォンスは、ぎりりと手を握り締めた。

そのとき、丁度エドワードの執務室の電話が鳴った。
「はい」
『ガネット少尉です。やはり、憲兵は存在しませんでした。今から現場に向かいます』
「まってください、少尉!僕も行きます」
 今回の事件は数人しかしらない。アルフォンス、ガネット、ローズ、そしてロイ。この四人だけしか動かしていない。それは、コトを大きくする必要がないとみたためであり、大きくする必要があると思うなら、犯人は声明文を出すだろう。だから、この一見はテロリスト関係ではないと思われるし、軍への不満があるようにもみえない。やはり、本人も思うように、ロイが絡んでいるのだ。
 アルフォンスは大部屋へ飛びだすと、ロイがどこへいく?と尋ねる。
「現場に行きます」
「まて!今のおまえに、冷静に判断が下せるのか!?私がいこう」
 はっきりいって、冷静です、とはいえない。
「しかし」
「判断が出来ないとなると、みすみす部下を殺すことになりかねないぞ」 
 ロイの言うことも分かるし、それは心苦しいことではあるが。
「少将。貴方の言うことはもっともだ。だが、兄は僕を待ってるんです」
 ああ、この瞳を昔みたことがあるな。
 ロイはそう思う。
 場所はリゼンブール。片手、片足をもぎ取られて、弟を鎧に定着したあの時期。
 あの、エドワードの瞳に似ている。
 焔の付いた、あの瞳に。

 ロイは、ふっとため息をついた。
「おまえらはホントに兄弟だな。いいだろう。だが、無事で帰ってこい」
「はい」
 アルフォンスは、軍靴をカツンと鳴らし、右手をこめかみにつけて、敬礼をする。そしてすぐに駆け出した。

 悪いだなんて思わない。これも、大総統へ上がるための、儀式と思えばいい。それに、こんなことでやられるような人間じゃない。
 あの兄弟は、強い。

 ロイは、鼻でため息をついたが、自分の仕事を始めた。その第一歩として、セントラルに電話をする。相手は、ハボックだった。
『少将!いいところに電話してくれました!そこに錬金術研究所のヤツらいますか?』
「いや、居ないが。どうした?」
『あいつらヤバイっすよ。少将と敵対しているトール少将と繋がってます』
 ロイはしばらく考えていた。
トールと繋がっているとなると…。では、わたしが彼らをセントラルから研究所に配属したことを恨んでいるのかもしれんな。まえまえから、東方司令部の司令官候補にハンツ大佐が入っていたからな…。
「なるほど。ハボック、トール少将の身辺を洗ってくれ。崩すぞ、トール少将の一派を」
『りょーかい』
 
 悪いな、鋼の。おまえの命は無駄にはしない。
 ロイは、ふっと笑った。
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