よみもの アルエド(未来軍部)2

□喧嘩。
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 朝から、静かな大部屋は、静かというよりも冷たい空気に晒されていた。一番うるさいはずの、司令官とその副官が、何も話さないのだ。
 
 普段、家族でもあり、仕事上もパートナーとして何かと共にいるふたりは、実に仲のいい兄弟だった。それは、部下の目にもはっきりとわかる。もちろん、朝からその様子を見ていたガネット少尉も、喧嘩したのかな、と思うくらいだ。
「ガネット少尉」
「ガネット」
 そういうときに限って、二人に同時に呼ばれる。ガネットは青ざめて、司令官と副官を交互に見合った。
「あ、あの…」
 どちらに行ったらいいか正直わからない。もちろん、階級順には司令官なのだろうが、副官もコワイというのが直属部下の共通見解だ。
 
 司令官は、ふんっと顔をそらして、大部屋から執務室へ引っ込んだ。
「た、大佐〜」
 まさか、自分に怒ったのでは、とあせるガネットだが、副官がにっこり微笑んで。
「少尉を怒っているのではありませんよ。大佐の子どもっぽいとこは許してやってください」
 その言葉は実は、声が大きい。だから、当然、執務室にもとどいていて…
「だァれが子どもだ!」
 と執務室から出てきた司令官は、三白眼で睨んでいる。もちろん、ガネットではなくアルフォンスに。
「その態度がです」
 くっと怒りを耐えて、エドワードは再び執務室に引っ込み、バアン!と音をたてて扉を閉めた。

 ハア…とアルフォンスがため息をついたのを、ガネットは知っていた。
 そして、その副官が苦笑をこぼしていた。
「子どもっぽいのは、僕も同じです」と。
「喧嘩…ですか?珍しいですね」
「そんなこともないですよ。しょっちゅうです。今では流石にしないですけど、子どものときは喧嘩となると殴り合いでしたよ。でも、大佐が負けるんですけどね」
「へえ、意外です」
「彼は…弟相手に本気で殴れないんです。いえ、本当に痛いパンチやキックを繰り返すんですが、弟ってだけで無意識に手を抜いてしまう。兄のサガですね」
 今回は、流石に長い。喧嘩は昨夜に起こった。いつもなら、どちらかが折れて謝って、一緒に寝て。次の日はもう仲直り、が通常なのだが。今回はどちらも折れない。
「優しいんですよね、大佐は」
「上手にそれを表に出せないんだけどね」
 再びアルフォンスは苦笑して、自分の机で書類を捌き始めた。


「エネルーエネルーエーネールー」
「なんだそりゃ」
 たまたまエドワードが廊下へ出たとき、エネルがいたので、変な節をつけてそう呼んでみると、エネルは笑って振り向いた。イタズラ成功、のような無邪気な笑顔でエドワードもくしし、と笑う。
「おまえ、今日暇?」
「なんだ、珍しい。お誘いか?」
「呑みにいかね?俺、今日すっげー呑みたい気分」
「ああ、イイケド…」
 向こう側から、闊歩してこちらへ向かってくる長身の男…副官のアルフォンス。だけど、エドワードも無視、あちらも無視の状態ですれ違い、エネルは目を丸くした。
「アルと喧嘩したのか?」
「べーつにー」
 ツンとそっぽを向いた二人に、はあ?と呆れ顔のエネルだった。

 そんな状態で、静かな大部屋がはっきりいって寒いと感じるガネット。早く定時が来いと願うばかりだ。それに、今日に限ってローズは出張だ。
 あ〜怖いよ〜と今にも泣きそうだった。

 定時になったとたん、ガネットは、ささっと立ち上がって、大佐に挨拶、中佐に挨拶したあとさっさと身支度をする。
「お疲れ様でした、少尉」
「お疲れさまです。お先に失礼します」
 大部屋を出たとたん、走り出すガネットだった。

一方、ほとんど自分の執務室に入り浸っていたエドワードは、定時と共に身支度をして、大部屋へ出る。アルフォンスが仕事をしているのを横目でみて、そのまま何もいわずに廊下へ出た。
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