よみもの アルエド(未来軍部)2

□合成獣の祈り
1ページ/9ページ

「キメラが野放しになってる?」
 東方司令部司令官、エドワード・エルリックは、弟で副官のアルフォンスに報告を聞いて、どういうことかと問う。
「東にある山に入った老人が、死体で発見されたのがきっかけなんですが、どうも獣のツメあとが体中にあったようなんです」
「熊じゃないのか?」
「ええ。もちろん考えました。ですが、違ったんですよ。それで、調査が入りまして、憲兵の六人編成チームが全滅」
 エドワードは、怪訝な表情でアルフォンスをみた。
「全滅?」
「ええ。四人死亡、二人重傷。その二人によると、熊でもなくあえて言うならライオンのような鬣と、爪と牙をもっていたというんです。だが、足にはヒレのようなものがついていて、尻尾にはうろこのようなものがあったというのです」
 アルフォンスは調書をエドワードに見せた。
「目撃情報によると、キメラだな。それで、キメラ実験している錬金術師や研究所には逃げた事実があるのか?」
「どこの研究所も否認していますが、実は小さな研究所なんですけど、怪しいとこがあるんです」
「東区の、その山の麓にある研究所なんですが」
 アルフォンスがふたたび、研究所の報告書を提出。
「マオ研究所、研究員三人の小さな研究所です。所長は、マオ・フェン」
 報告書には、写真もつけられていた。浅黒い肌をもち、髪も黒い。瞳が赤ければ、イシュヴァール人かと思うが、瞳も黒かった。
「異国の人か?」
「人種としてはこちらの人間ではありませんね。東の国の方の出身かもしれません」
「それで、この研究所は何が怪しいんだ?」
「もう、研究所として機能していないようなんです。研究員は三人でしたが、今は一人もいません。所長だけがそこにいます。住居を兼ねているようなので」
「…うむ…」
「それで、そこはキメラ実験をしていたようなんですが、数日前、妙な光を見た、と住人がいっております。そのあとから、キメラ騒動です」
 エドワードは、キイと椅子を鳴らして、背もたれに身体を預けた。
「それで軍が動くしかないってわけか」
「ええ」
「じゃあ、エイジ少佐指揮のもと、エネルの隊とガネットの隊を派遣して。強力なナントカっていう銃火器の使用を許可する」
「はい」
 アルフォンスが退室すると、執務室にはエドワード一人になる。
「キメラ…か」
 エドワードの脳裏に、ひとりの少女が浮かび上がる。

 ニーナ…

 犬と錬成された少女の名を、エドワードは一生忘れることができない。国家錬金術師試験を心より応援してくれた少女。助けられることができなかった悔しさや後悔。いつまでもその記憶は消えない。 
 エドワードはぐっと胸で拳を握った。
 
 いつも見る窓からの風景に、雨が加わり、鬱蒼とした気持ちに拍車をかけた。

 ザアアア…
 振り出した雨は降り止まず、さらに勢いを増す。
「ガネット少尉、隊を、退け!」
 エネルの怒号が飛ぶ。ガネットは自分隊を後ろにひかえさせたまま、自分は威力の強力なライフルを持ち、頭上を越えようとするその物体に狙いを定めた。
 ダアアン――― 
 確かにそれは命中し、その物体の動きを止めた。だが、その瞬間ガネットを見据えた物体…ライオンのような形をしたキメラがガネットの足にくらいついた。
「ぐッ!」
「ガネット!」
「少尉!」
 エネルが、拳銃をとりだし、そのキメラの目を射る。それが嚆矢となり、一斉に下仕官たちが発砲した。
 何百という光がキメラ一直線に飛び、その巨体から血を噴出する。
 咆哮したキメラは、山の奥へと木々をなぎ倒すかのような勢いで、走り去っていった。
「くそ!ガネット!」
「ガネット少尉、動かないでください」
 ガネットの右足から、大量に出血している。エイジが錬成陣の書かれた布を取り出し、牙のあととおもわれる傷口にまきつけた。白い錬成光がガネットを包み込む。
「出血が多いので病院へ。至急手配してください。それと、一旦退きますが、監視を続けるように」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ