よみもの アルエド(未来軍部)1

□ゆきの舞う日
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朝から降り続いた雪が、うっすらと積もり、見慣れた建物が、化粧されていった。エドワードは、ただ何となく、ぼんやりとその雪を見ている。
 コンコン。
「失礼します。大佐」
 長身で金髪、金灰色の瞳。丸かった顔も今は、整いだけど優しい目はかわらない、エドワードの弟。アルフォンスが、執務室に入ってきた。
「サインをお願いします」
 アルフォンスが提出した紙に目を落とし、何気なくサインをする。
「ありがとうございます」
「なあ、アル・・・」
 ここは東方司令部だ。つまりは仕事中。だから、エドワードは本当はエルリック少佐といわなければならないのだが、二人だけだとついそう呼んでしまう。
「なんでしょう?」
「今日定時に終われるかな・・・。雪が酷いから」
「・・・・。そうですね」
 アルフォンスは一瞬、不思議そうな表情をみせたが、すぐに口角を吊り上げて微笑んだ。
「おまえは?」
 アルフォンスはつかつかと軍靴を鳴らして、エドワードの横に立ち、そっと耳にささやいた。
「僕も早く帰るよ。今日はご馳走にしようね」
 その耳朶に響く声に、思わず赤面し、エドワードはぶっきらぼうに「おう」と返事した。
でも、なんでご馳走なんだろ?
 まあいいや、と思ったところで、下の中庭で真っ白の中に赤い色を見つけた。軍服なら青だ。だから、その赤は異様に映える。
「子供だ」
「え?」
 アルフォンスも窓を覗き込むと、雪の中に子供が泣いているのか、顔を隠すようにし、一人の女性下仕官が頭をなぜていた。
「いってみる」
「えっ、ちょっと!大佐!」
 エドワードは執務室を出て、廊下を走っていった。一階の受付あたりに先ほどの赤いコートを来た子供が下仕官になだめられていた。だが、子供は泣きやまない。
「どうしたんだ?」
「あ、エルリック大佐」
 女性下仕官が敬礼しつつ、困ったように眉をひそめた。
「この子、迷子みたいなんです。なんでもパパを探しにきたって」
「パパを?」
 エドワードはしゃがみこんで、子供の顔を覗き込んだ。
「パパは軍人なのか?」
「ひっく・・・うん・・・。パパ昨日かえってくるっていったのに、かえってこなかったから迎えにきたの・・・」
 子供は、長い亜麻色の髪を三つ編みにして、目から純粋な雫をぽたぽたと流していた。
「そうか。ゴメンな。仕事がたくさんあるお仕事なんだ。名前は?」
「ひっく・・・、っ、に・・・ニーナ・・・」
 エドワードは目を大きく見開いた。ドクン、ドクンとやけに心臓の音が大きく聞こえる。
 ニーナ。その名は一生忘れない名前の一つだ。父親に国家錬金術師をもったがために、おこった悲劇の少女。父親の合成獣錬成に使われた、少女名だ。その子を助けられなかったエドワードは嘆き、罪を繰り返そうとした。あの、少女を思い出す。
 丁度、年も、長い髪も同じ。その純粋なまなざしも・・・。
「そうか。ニーナか」
「うん・・・。お姉ちゃんは?」
 もしかして、お姉ちゃんとは俺のことだろうか?
 その純粋な瞳がこっちをまっすぐ見つめている。
「お兄ちゃんはな、エドワードだ。エドって呼んでくれればいいよ」
「エドお兄ちゃん」
「そう。じゃあ、お兄ちゃんと一緒にパパ探そうか」
 エドワードはにかっと微笑んで、ニーナを抱き上げた。
「大佐、私が・・・」
「あ、いいよいいよ。仕事あるだろ?俺が行くよ。・・・行きたいんだ」
 エドワードの優しい微笑みに、女性下仕官は赤面していた。
「よーし。じゃあ、しゅっぱつー!」
 
 エドワードがパパ探しを開始したと同時に、一階まで彼を追ってきたアルフォンスがあたりを見回す。
「あれぇ・・・?」
 この辺りにいると思ったのにな・・・。と見回すが、エドワードらしき人物がいない。
「少佐、大佐をお探しですか?」
 受付の女性下仕官が訪ねると、
「ええ。ご存知ですか?」
「はい。先ほど、迷子の女の子のお父さんを探しにいかれましたよ」
「そうですか」
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