よみもの アルエド(未来軍部)1

□たまには外で
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エドワードは、手元の本から視線を上げて、ふと時計をみた。アルフォンスの見立てた、シンプルなその時計は、きっかり十二時を指していた。
 外は、漆黒の闇。リゼンブールよりは少ないが、星が瞬いている。
「・・・。九時には帰ってくるっていったのに」
 エドワードは恨めしそうに、その時計を睨みつけた。
 すると、ドアチャイムが鳴らされて、やっと帰ってきたか、とエドワードは鍵を開けに向かった。
 だが、扉を開くと、知らない男に敬礼されエドワードは面食らった。だが、向こうは知っているのだろう。敬礼されたことから、司令部の人間だと分かる。
「夜分失礼します、大佐。少佐をお連れしました」
 その男の後ろを見ると、アルフォンスがもう一人の男に支えられて立っていた。
「・・・アル」
 アルフォンスは、ふっと顔をあげ、緩みきった顔でにへらと笑った。
「にいさ〜ん」
「ばか!にいさ〜んじゃねーよ!悪いな、えっと・・・きみたちは・・・」
「は、ゴードン軍曹と、スミノフ軍曹です」
「弟が世話になったな。ほんと、わりィ。ゴードン軍曹、スミノフ軍曹」
「いえ。では、失礼致します」
 敬礼して去っていった二人の背中を見送り、エドワードはアルフォンスの顔をみた。
「おまえがそんなに酔ってるのって珍しくないか?」
「えへへ」
「機嫌まで良いし・・・」
 こんな顔じゃあ、冷静沈着だけど、温厚で容姿端麗、だなんてもてはやされてるアルフォンスの品位が下がるんじゃないのか?
 エドワードはそんな言葉を、ため息で制しアルフォンスを支えて部屋へ入った。

「だらしない、なんて俺にいえないぜ?」
 アルフォンスはだらりとソファにすわり、だけど表情は笑顔のままだ。
「何かいいことあったのか?」
「あるわけないじゃん。兄さんに会えなくて寂しかった〜」
 アルフォンスがエドワードの腰に抱きついてくる。こんな甘え方は珍しい。いつもは、もうすこしスマートだ。あ、酔ってるからか。
「分かったから、な。今水持ってくるから、な。おちつけ!」
「いらない・・・。兄さん不足」
「って、おまえが友達と呑みに行くっていったから、同じ時間が過ごせなかったんだろーが」
「クスン・・・」
「泣きまねすんな」
「じゃあ笑う〜あははは」
「この酔っ払い!!」
 エドワードはアルフォンスの頭を一発殴る。だけど、アルフォンスはへらへらと笑っていた。
「でも、一度兄さんもおいでよ。みんなで呑むと楽しいよ」
「やーだね。みんなでわいわいってのは嫌だ。俺は二人くらいでチマチマ呑みたいの」
「えー・・・。でも、約束しちゃった。今度は兄さんを連れてくるって」
「バカ言うな。だって、俺がいったら、みんな沈黙しちまうだろ」
 こうみえても、東方司令部の司令官だ。階級がすべてを物語る軍において、大佐階級だと、下仕官は萎縮するのでは、とエドワードは思う。けして自分は、威張ってるつもりはないのだが。
「でも、大佐と呑みたいっていってたよ?」
「ばか、社交辞令」
「じゃあ、一度でいいから参加してみなよ」
「・・・・おまえなー・・・」
 エドワードがこういう、社交の場というのがすきではない。それを知っているアルフォンスが、エドワードの嫌がることを進めるのは珍しい。
「お願い、兄ちゃん・・・」
 どうせ、これだけ泥酔していれば今日約束したって、忘れるだろう。そう思ったエドワードは、
「ああ、わかった。一回だけな」
「やったー」
 手放しで大喜びしているアルフォンスを見て、エドワードは苦笑した。
 なにがそうも嬉しいんだか・・・。


 そして数日後。
「兄さん、もう今日は上がりだろ?」
 珍しく自分の隊(部下)の集まる部屋にいたアルフォンスは、兄の執務室まで電話する。兄は、ちらりと時計をみてから、ああ、と返事をした。
「だったらさ、ゴードン軍曹と、スミノフ軍曹たちが兄さんも一緒に呑みにいこうって」
「え〜ヤダよ。たくさんいるんだろ?」
「ボクの隊員十名ほどかな。四人女性が来るけど・・・」
「ヤダね。先に帰る。ちょうど頼んでおいた本が返却されたって、図書館から連絡もらったし」
「え〜?兄さん約束したじゃん。このまえ」
「はあ?」
「兄さんほどの記憶力がある人が、忘れたなんていわせないよ。ボクが以前、ゴードン軍曹たちとのみにいったとき、約束したじゃない。一回だけな、って」
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