よみもの アルエド(未来軍部)1

□心配するひと、されるひと8終
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8.
 アルフォンスがいつものように、病室に向かうと、エドワードの姿が見えない。
 あれから数週間、目覚めたばかり時よりもずいぶんと動けるようになったので、どこかでリハビリをしているのかもしれない。
 そう思って、窓から中庭を見下ろすと、見慣れた金髪が揺れている。その近くには、車椅子に乗った子どもの姿が見える。

 エドワードは、にっと笑って両手を叩き、芝生に手をつく。青白い錬成光が輝き、目の前にピンク色の花が咲き乱れていて、車椅子にのった子どもは、わー!と驚きで声を上げていた。子どもは女の子で、エドワードがその花で編んだ花の首飾りをみてにっこりと微笑む。
「すごいね!お兄ちゃん!魔法使いみたい!」
 エドワードはニッと笑って、女の子の頭を撫でてやる。丁度看護婦が、女の子を呼びにきて、そのまま看護婦と去っていくのを手を振って見送った。
「ここにいたんだ」
 エドワードが振り向くと、アルフォンスが軍服のまま笑顔でこちらをみていた。
「喋れなくても錬金術は使えるみたいだね」
 そうなのだ。まだ、エドワードははっきり話すことが出来ない。あ、う、と声を発することはできても、言葉としてつむぐことができなかった。
だが、体を動かすことは、幼いころから鍛えていたためか、一般の人よりも動かせるのは早かった。
「大分、動くようになったみたいだね。ウィンリィが歩き方がマシになったってよろこんでたから」
 昨日は、仕事が多くてどうしても来れないアルフォンスに変わってウィンリィが来ていた。
「機械鎧のリハビリよりは楽でしょ?」
 エドワードは、にっと笑って、うなずいた。
「少し、寒くなってきたね。部屋に入ろうか?」
 そういって、アルフォンスはエドワードの手をとった。エドワードの歩幅に合わせて、ゆっくりと進めていく。
 だが、エドワードはふとアルフォンスとつないでいる右手をみた。なんだか急に恥ずかしくなって、ばっと自分の手を引く。
「あ、ごめん」
 大勢人のいる場所で、堂々と手をつなぐ成人男性はいないだろう。そういうことを気にするエドワードの気持ちを、無視したかと思い、アルフォンスは苦笑した。
 
エドワードは、しまったと思う。手を離すことで、今度はアルフォンスを傷つけた。
 眉を顰めて、エドワードはアルフォンスを見上げる。
「…っ…!〜〜〜っ!」
 声を出そうにも、出ない。苦しそうに喉を押さえるエドワードに、アルフォンスは無理しないで、と肩に手をそえた。
 でも、言わなきゃいけない。
 これは伝えないと、いけないんだ…
「あ…う…ア…」
「無理しちゃだめだよ、ね」
 優しい、自分をいたわる弟の笑顔。
 おまえを傷つけたのに、笑わないでほしい…俺が悪いのに。
 全部、自分の弱さが招いたことなのに、どうしてこうも、お前は優しいんだろう。
 
 言いたいのに、いえないもどかしさで、感情が溢れ出す。大きな金色の瞳からぽろぽろと涙が溢れだした。
「…ん…ご………ぇ…ん。…………ご、め…ん、あ、る」
「兄さん!」
「あ…」
 言葉が必死で絞りだされ、そして、エドワードの口からこぼれ落ちた。
 その言葉の意味と、言えた喜びで、アルフォンスは思わず兄を抱きしめる。
「よかった、兄さん!話せた!」
「…ん」
「でも、でもね、兄さん。言ってほしい言葉はそれじゃないよ」
 抱きしめられたまま、エドワードはアルフォンスを見上げた。
「貴方が言ったんだよ。兄さんのいるとろこが、僕の帰るところだって」
「…お…か、え、り…」
「うん…、ただいま。兄さん!」
 再び力強くだきしめられて、エドワードはその心地よさに溺れる。そして、ふと、肩の階級章を見た。
 …中佐、か。
「お、めでと、う」
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