よみもの アルエド(未来軍部)1

□すべてを捧げる覚悟で、愛を紡ぐ日
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すべてを捧げる覚悟で、愛を紡ぐ日。

 すべてが、純白で彩られたその場所は、自分がいてもいいのか、と思うほど純粋な色がすべてを包んでいた。
 神がいるとされる、祭壇の上からは、ステンドグラスの美しい光がさしこまれ、その光の中心には、男女が神への誓いをたてている。
 
男は、ロイ・マスタング少将。光沢のあるグレーのタキシードに身をつつみ、童顔といわれる甘いマスクも、今日は少々緊張気味だった。その表情は、普段軍人としてみせる顔ではなく、もっとやわらかいものだ。
 ロイはふと、隣の女性を見る。
女性の名はリザ・ホークアイ少佐。いつもは、軍人としての厳しい表情と、きりりとした眉に縁取られた鋭いとび色の瞳も、今日ばかりはやわらかく、頬もほんのり薔薇色に染まっている。ドレスも生成り色で、体の凹凸がはっきりしていて、かつマーメイドのように、すそにレースが使われて広がるようにデザインされていた。彼女の美しさを、更に際立たせるそのドレスに、万人が魅了されていることだろう。
彼女の顔を覆う、オーガンジーのベールが、ロイによって上げられ、ふたりは一生共に生きることを誓う口付けを交わしたー―。

教会の鐘の音が、蒼天に響き渡る。二人を祝福する人々が、彼らに花弁のシャワーを降り注ぐ。そんな様子を、エドワードは少しはなれた場所でみつめていた。
「兄さんもこっちおいでよ」
「いや、ここでも見えるし」
 幸せそうな二人の表情を、エドワードは笑みを浮かべて見つめていた。だが、反対に心に暗闇をもたらしているのも事実だ。
 いや、二人が妬ましいとか、そういう類のものではなくーー。
 『結婚』という儀式がこんなにすばらしいものだということを、知らなかったこと。そして、そのすばらしい儀式を、させてやれないという、思い。
 誰に、という疑問は必要ない。エドワードが想うのは、今も昔もアルフォンスのことだけだから。
 幸せそうな二人を、笑顔で見守る人々。
 おめでとう
 祝福される、関係。
 ありがとう
 祝福の感謝。
 …自分たちには、決してされることのない、『祝福』―――
 そんな考えに深入りしていると、ふと何かの影が近づき思わずソレをキャッチしてしまった。
「……」
 花。
 黄色やオレンジ、薄ピンクの花でアレンジしてある、花束。
 −―え?
 エドワードだけではない。そこにいるすべての人間が、え?と一瞬止まったようだった。

「ははは」
 急に大声がきこえて、ふとエドワードが顔をあげると、主役の一人であるロイが、笑ってエドワードに近づいた。
「鋼の、知っているか?花嫁のブーケを受け取った人は、次の花嫁になれるんだぞ?」
「ええええ!?うわ、ごめん!」
 誰に謝っているのかわからないが、自分には関係のない、しかも祝福されていた人の大切なブーケを受け取ってしまって、エドワードはとりあえずリザに向かって頭を下げた。
「クス。貴方は幸せだもの。今更ブーケをキャッチしたからといって、どうってことないわよね」
 でも、まわりの女性の目が痛い…。
 しかも、恥ずかしい…。
「今から、渡してもだめだよな…?」
「いいじゃない。貴方がもらって」
 リザの頼みとなれば、エドワードは弱い。それは昔からかわらない。
「ホント、ゴメン…俺なんかで」
「貴方が受け取ったのも、運命よ。気にすることないわ」
 リザの微笑みは、エドワードに少しの安堵感を与えた。

 そのあと、結婚パーティがある。セントラル中心街のレストランを貸切にして、軍のお偉いさんからロイやリザの部下、家族といった人々が一同に集まるのだった。
「元気ないね」
 アルフォンスが、パーティ会場の隅っこでブーケを握って沈みきっている兄に言葉をかける。
「そんなことねーよ。…あ、サンキュ」
 アルフォンスがもってきたワイングラスを受け取って、すこし口をつける。
「でも、兄さん。その、正装にブーケ似合ってるよ」
「バッ!バカ!!似合うわけねーだろ!」
 赤面して、そっぽを向いたエドワードに、アルフォンスは優しい笑みを向ける。
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