toy ring

□toy ring 1
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そこまでキモチワルイと思ってたのか、アルフォンスは。
 俺が兄だから?いつまでも、お守りされたくないって?
 それとも、カラダで仕事をとってくるから?
「は、ははは…」
「エド?」
 俺がしてきたこと、すべてがあいつにとっては、重りにしかならなかったのかな。

「ゴメン、ヒューズさん…俺たちを救ってくれた、貴方に恩を仇で返すようで、悪いんだけど…俺、もうできない。この仕事――」
「エド!?」
「辞めるよ。今月の給料もいらない。今すぐ辞めさせて」
「ちょ、待てよ!もう少し考えろよ!オマエが違う仕事がしたいとかなら、許可できても、なんで今――」
「ごめん。もう…ムリだ」
 エドワードのはにかんだような苦笑を、ヒューズは止められる術をしらない。
「エド、どうするつもりだよ、これから」
「…これから考える」
「エド!」
 ふらり、と力なく歩き出したエドワードに、ヒューズは慌てた。その無気力な目を、遠い昔に見たことがある。今にも死にそうな、あの顔を。自分が助けなくちゃ、こいつらは死ぬ、とさえ思ったあの時。
「ッ、エド!」
 呼んでも、追いかけても振り向こうとしないエドワード。その足取りを止められず、彼は事務所を出ていった。

 スクランブル交差点の人の波に押されて歩き、ほとんど癖のように地下鉄に乗り、知らぬ間に着いた先は、自分が住むマンション。
「…アルが出て行ったのは、もう何ヶ月前かな」
 ずっと一緒に暮らしていたが、弟が突然別々で暮らしたいと言ってきた。寂しいと思ったが、仕事上あえない日はない。そう思って、許可して。だけど、その仕事さえ会えなくなって。
 好きな女でもできたなら、兄弟で住んでいれば不都合なこともあるだろう。そうおもって、納得したのに、どうして仕事も一緒にしてはいけないの?
 もう、俺の支えは何もないんだ――。

 帰宅して、癖でリビングのテレビをつけてしまった。
 そこには、画面いっぱいに弟の顔。その前には、少し年上の女優がいる。
『僕が、貴方を愛して何がいけないの!?』
『…貴方はまだ若いから』
 
 そんな台詞がエドワードの脳天を直撃する。
途端、ソファに倒れるように座り込み、目から溢れる涙を止められない。
「ッ…!アル…!アル…!俺がおまえを愛してはいけないんだ…!ゴメンな…ゴメン…!」
 
 テレビでは、アルフォンスが女優を抱きしめて、その女優の顔が涙で霞む。女優の涙なのか、自分の涙なのか、わからなくて。
 アルは今日、まりあとデート。
 女だったらよかった?
 …他人だったらよかった?

 …俺がしてきたことを、キモチワルイと思われてもいい。お前を芸能界でトップに押し上げて、みんなにオマエの存在をアピールしたかったんだ。そうしたら、俺たちを捨てた父親だって、きっと何かを思うだろう。
でも、結局俺は、おまえの傍に居たかっただけなんだ。理由をつけて、おまえの傍から離れたくなかった。
「…ごめんな…俺もう、おまえの前に現れないからさ」

 必要最低限のものを詰め込んで、ここを出よう。
 誰も知らない場所、アルを思いださない場所――。

 エドワードは、涙をふいてソファから立ち上がる。テレビのアルフォンスは、女好きするような笑みを浮かべて、女優をみつめている。
「…さよなら、アル」
 テレビを消して、トランクに少量の着替え、通帳などの必要なものだけを適当に詰め込んで。
 
 自分の部屋のとなりはアルフォンスの部屋だった。何もない、がらんとした部屋だが、エドワードはそこの扉を開く。
 アルフォンスが出ていってから、初めてエドワードはそこの扉を開いた。
『ん?どうしたの?兄さん』
 アルフォンスのお気に入りのベッドも、机もない。だけど、はっきりと思い出せるのは、家具の配置とアルフォンスの笑顔。
「ごめん、なんでもないよ」
 幻の笑顔に、繕った笑顔を向けて。
 
 エドワードは、踵をかえした。
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