toy ring

□toy ring 4
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「なんで…そんなこと言うんだよ。俺、両方大事なのに…プラチナだろうが、おもちゃだろうが、俺にとって、あの指輪は同じ価値があるんだよ!どっちかなんてとれない!」
「でも、僕は貴方が辛い思いをするより、諦めた方が…」
 その時、アルフォンスの携帯電話が鳴った。出るのを躊躇ったが、エドワードはふいっと顔をそらして視線を芝生にもどす。

「ルビィ?うん、ゴメン今日は行けないよ」
『ええ、どうして!?』
「指輪…探してるから」
『え?まさか昼の?』
「うん。アレは、兄さんの大切なモノだったから」
『じゃあ、それがあったら、食事しましょ』
「え?」
 
 その十分後、丈の短いスカートとヒールの高い靴をはいて、ルビィが現れた。
「あたしも一緒に探してあげる」
 そういって、アルフォンスの腕にしがみついたのを、エドワードは睨めつけるように見た。
「おまえ、全然探す気ないじゃん!そんな服装で」
「何よ!探してあげようって言ってるの」
「おまえが無くしたんだろうが!!」
「なによ、そんなおもちゃの指輪一つで」
 その言葉に怒り心頭のエドワードは、いきり立った。
「おまえなんかに探してもらわなくていい!アルも行け!」
「な、何でそんなこと言うの!?」
「オマエだって、もう探したくないんだろ!俺は、一人で探すから、おまえら行け!!」
「なっ!だれもそんなこと言ってないだろ!?」
「わかったわよ。行きましょう、アルフォンス」
 ぐっとアルフォンスの腕をひっぱって行くルビィ。
「や、でも、ルビィ…。兄さんをひとりにしておくわけには…」
「あんなヤツほっとけばいいのよ」
 さっさとタクシーを捕まえたルビィは、アルフォンスを押し込んで、自分も乗り込んでしまった。

 ひとり残された、エドワードは芝生を見つめる目が、霞んでいくことにきがついた。
「っ…」
 誰にも価値のない、指輪。
ダイヤモンドがついていれば、高価だから探す価値があるのか?それともプラチナだったら、ゴールドだったら?
 金銭的価値じゃない。アレは、自分にとって、唯一無二のもの。
 アルがくれた、初めてのプレゼントだ。純粋に、大切だからあげるねって言ってくれた、大事な、大事な指輪。

 ぽつ、っと頬に冷たい感覚が走った。涙はもう、頬を伝っているから、考えられるのは――雨。
 エドワードが顔を上げると、雨がざーっと振り出した。
「っ!」
 流れて、どこかに行ってしまうかもしれない。泣いてるヒマはない。
エドワードは必死に、芝生の上を這いまわった。
 同じところを何度も、何度も捜すが、見当たらない。
 昼、ルビィが投げた窓を見上げる。そこから、放物線を描くならどのあたりだろう、とシュミレーションするが、やはり今自分がいる辺りだ。
 もうすこし、手前を探してみよう。
 もうすこし、右。
 もうすこし、左。

 そう思ったとき、エドワードのうつむく視線の先に、白いスニーカーが目に入った。
「何やってんだ?大将」
 見上げると、咥え煙草がトレードマークのハボックが、青い傘を差し出していた。
「ハボックさん…」
「ほら、傘に入れよ」
 そう促されても、エドワードは首を横にふる。そして、ふたたび膝をついて、草を掻き分けた。
「おい、たいしょー?」
「大切なもの探してるんだ。ハボックさん仕事終わったんだろ?お疲れ」
 ハボックは、大げさにため息をついてみせた。
「おまえな〜」
「俺、これを探さないと…」
「わーった。俺も手伝うよ」
 エドワードの鋭い金の瞳に下から射抜かれて、ハボックはため息まじりにそういって、傘をたたむ。
「ちょ、いいって!俺の問題だし!誰にでも価値のないもんだし、それに、俺だけのものだから!」
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