toy ring

□toy ring 7
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 アルフォンスが去ってから、電話をみると着信はマスタングとなっている。
「わりぃ、今行く」
 それだけ伝えて、エドワードも慌ててマンションを飛び出した。

 スタジオに着くなり、マスタングに睨まれて、エドワードはなんだよ、と睨み返した。
「すこしは、らしく整えてこい!」
 一瞬意味が分からなかったが、身なりのことらしい。ジーパンにシャツとジャケットと簡単に服を決めたが、髪は整えてない、適当に括ってきただけだ。
「時間なくて。で、ちゃんと、いつも通り、スタッフは少なくしてくれたんだろ?」
「ああ。おまえが売れるのは構わんが、仕事が増えるのはヒューズも困るらしいからな」
 エドワードがぐるり、と見渡すと見知った顔しかいなかった。
「それに、おまえ専属のヘアメイクも来てもらったぞ。準備してこい」
「はいはい」
 
 ヘアメイク担当は、ラストなので何も言わなくても勝手に準備してくれるので、楽だ。衣装は決められていて、真っ黒な帽子セミハードハットと、黒のスーツ。そして黒のワンピースだった。
「やっぱ、女装か…」
 想像はしていたが。
「最初は、そのスーツみたいだから」
 
 帽子の中に、髪を全部入れられて、スタジオに入った。
「よっし、やるか」
「あら、今日はやる気ね、エド」
「オレが頼んだ仕事だからな。演技でも何でもしてやるさ」
 ラストは虚をつかれたような表情で、彼の背中を見つめた。
「ホント、珍しい」


 一ヵ月後。新聞、雑誌、ワイドショーは、『ed』初のCM撮影の話題で持ちきりだった。映画に出演したことはあるが、それ以来雑誌『toy』の撮影にしか顔を出さないモデルが、いきなりのCM撮影だ。

 たまたま休みだったアルフォンスは、ワイドショーが初公開!という見出しで、CMを流していたのを目撃した。
「…」
 辺りは真っ暗で、ヒールを鳴らして歩く人。帽子を深く被って、人物は分からないが、その帽子を投げたとたん、金の煌めく髪がはらり、と落ちてそこは髪をアップにされた。そして、銃をカメラ側にむけて、鋭い目つきのエドワードがアルフォンスの眼球を射抜く勢いで、銃を発砲。一転、微笑むエドワードの横顔がアップにならんで、シャンプーとコンディショナーのボトルが並ぶ。それが、一つ目。
次に、二つ目が流れる。スーツの強いイメージから一転、キラキラと光るワンピースと同じように輝く金髪。ステップを踏むかのような軽やかなダンスを披露し、猫と被るような画が入り、最後には、本物のクロネコにちゅっと口づけをして、同じようにシャンプーとコンディショナーが並ぶ。
そんなCMだ。
「…いつ撮ったの、コレ」
 エドワードは、さっきから隣にいたのだが、小さくなって、モチロン自分の映像なんて見たくなくて、うつむいていた。
「えっと…その、おまえが…ロケ行ってる間…」
「僕にナイショで!?」
「っ、ゴメンっ」
「マスタングさんに頼まれたの?」
「…違う。俺が頼んだ」
「どうして!?」
「アルバイトないかな、って頼んで…」
「アルバイト!?お金に困ってないじゃない!何に使ったの!?」
「えっと、まだ言えない…かな」
「え!何それっ!どうして僕に秘密にする必要があるわけ!?」
「いや、べつに秘密にする必要っていうか…その…」
「…僕に言えないことしてるわけ!?売れない芸人に出資してるとか、好きな男あるいは女に貢いでるとか…!まさか、ホストとか!?」
「…なに、馬鹿なこといってんだよ。そんなわけないだろ」
「じゃあ、言ってよ」
「だから、まだ言えないって」
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